今夜、私は恋人じゃない人と……した。
ただの友達と――
ずっと一緒に過ごしてきた学生時代の最後の記念、「最後の思い出」作りのために。そこにはもちろん何の愛情も存在しない、あなたにとっては突然思いついたただのイベント。
だけどね……
私には、嘘みたいに幸せな時間だったんだよ。
嬉し涙を我慢するの、すっごく大変だったんだから。
だって……
私、ずっとあなたが好きだった。
大好きだったから――
あなたに抱かれたこと、それは紛れもない事実で、たとえ、片思いでも、友達でも、何でもいい……何でもいいって思ってる。
それだけで幸せだって。
なのに……不思議。
なぜこんなに涙が溢れるの?
「好き」
あなたに抱かれながら、本当はそう言いたかった。
言えたらどんなにラクだろうって。
でも、言えなかった。
言えるわけ……ない。
その「好き」の2文字は、私なんかが言ってはいけない。あなたへのこの想いは、ずっと胸の奥に閉まい込んだまま、ずっとそこから出さないと決めたんだから。
鳳条 龍聖(ほうじょう りゅうせい)、25歳。
高校時代の同級生で、180cmの長身を生かしてバスケ部に所属し、エース的な存在として活躍していた。
私は、マネージャーとしてずっと近くで龍聖君を見てきたけれど、とにかく何をやらせても完璧。英会話に通い、英語も話せて、フランス語も勉強していた。
もちろん、いつだって成績はトップ。スポーツだって誰よりも万能で。
それだけでもすごいのに、龍聖君の存在を知らしめる決め手はそれだけじゃなかった。
その1つは、恐ろしいほどのイケメンだということ。
二重の綺麗な瞳、鼻筋がスっと通り、少し薄めの唇で、見た目全体にほんのり色気をまとわせていた。
高校生とは思えないその大人びた端正な顔立ちのせいで、女子からのアプローチは半端なく、間違いなく学校一の人気者だった。
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