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シンヤとレオナードは、冒険者ギルドが管理する訓練場に来ていた。
「さあ、始めようぜ!」
「いつでもかかって来い。まあ、結果は見えてるけどな」
シンヤは泰然と構える。
そんな彼らを囲むように、いつの間にかギャラリーが集まっていた。
「あいつ、本当に大丈夫なのか?」
「レオナードの奴、最近調子に乗っていたからな。いい薬だぜ」
「シンヤとかいう奴も、戦っているところは見たことがねえんだよな。あの時の殺気は凄まじかったけどよ……」
「レオナードの野郎は、もう完全に勝ち誇った顔をしてやがるし、完全に油断しているな」
「若手の生意気な有望株に、規格外の新人。お手並みを拝見させてもらおうか」
ギャラリーたちが口々に話す。
そして、そんな彼らの前を歩く獣人の奴隷がいた。
ミレアだ。
「さあ、トトカルチョを受け付けているゾ。シンヤとレオナードとかいう奴のどちらが勝つか賭けてみないカ?」
「へえ? 面白いことをするじゃねえか!」
「俺はシンヤに金貨一枚だ!」
「儂もシンヤじゃ!」
「私もシンヤさんに賭けるわよっ!」
「へへへ。お前ら、夢がねえな。こういうのは大穴に賭けるものだぜ。ズバリ、レオナードに銀貨一枚だあぁっ!!」
「威勢よく叫んだ割に、たかが銀貨かよ!!」
ギャラリーは大盛りあがりを見せている。
賭けの人気は圧倒的にシンヤが上回っていた。
「ちなみに、あたしはシンヤが勝つ方に賭ける。金貨三枚ダ」
ミレアがそう宣言する。
胴元がどちらかに肩入れするのは、本来はあまりよろしくない。
だが、この場でそれを指摘する者はいなかった。
元々、場当たり的に始まった適当なトトカルチョなのだ。
「ずいぶんと盛り上がっているようだな。不人気のレオナード君、残念だったな」
「言ってくれるじゃねぇか。もう手加減をする気はなくなった。後悔しても知らねえぞ?」
「お前こそ、俺に負けた時の言い訳を考える時間は終わったか?」
「……ッ!! 上等だぁ!!」
激昂したレオナードが斬りかかる。
シンヤはそれをあっさりと受け止めた。
彼の得意魔法の一つ、【フィジカルブースト】により身体能力が強化されているのである。
「なっ!?」
レオナードが驚く。
「どうした? それで終わりか?」
「くっ! 舐めるんじゃねえ!!」
その後もレオナードは果敢に攻め続けたが、シンヤに掠りもしなかった。
「ぜぇ……ぜぇ……」
やがて、息を切らせたレオナードの動きが鈍くなる。
「そろそろ降参したらどうだ? 別に無理して戦う必要はないんだぜ?」
「ふざけんな! 誰が負けを認めるかってんだ!!」
レオナードは諦めずに攻撃を続ける。
しかし、その動きは次第に精彩を欠いていった。
「クソッたれ!」
悪態をつくレオナード。
そんな彼に、シンヤは無情にも追い打ちの言葉を放つ。
「おい、レオナード。諦めたらどうなんだ?」
「うるせぇぇぇぇぇぇ! お前こそ、避けているだけのチキン野郎だろうが!!」
「……仕方がないな」
シンヤは大きくため息をついた。
そして……
「これで終いだ」
そう呟いて、レオナードの首筋に手刀を叩き込んだ。
レオナードはその場に崩れ落ちる。
「勝負ありだな」
シンヤはそう言うと、彼に背を向けた。
「「「うおおぉぉっ!!!」」」
ギャラリーから歓声が上がる。
「すげぇぞ、やっぱりシンヤの実力は本物だな!」
「あのレオナードの坊主に勝っちまうなんて!」
「しかも圧勝だったぜ!」
「レオナードの奴、完全に格下扱いされてやがったな!」
「あんなに強ければ、そりゃゴブリンキングだって倒せるよな!」
「レオナードの馬鹿は調子に乗りすぎなんだよ!」
「でも、シンヤさんが相手なら仕方ないです!」
「ああ、そうだな。むしろ、レオナードが少し可哀想な気もしてきたぜ」
ギャラリー達が口々にそう言う。
「くっそおおぉ! 俺の銀貨一枚がああぁ!」
「たかが銀貨で大げさな奴だな」
「へへへ。俺は金貨一枚を賭けていたからな。金貨一枚と銀貨一枚になったぜ。……って、倍率低すぎだろ!」
「仕方ねえさ。ほとんどの奴がシンヤに賭けていたからな」
「レオナードに賭けていた奴は、大穴狙いのバカか、ゴブリンキングの件をたまたま知らなかったタイミングの悪い奴らぐらいなもんだぜ」
「ふふふ。あたしは金貨三枚を賭けていたからナ。儲けさせてもらったゾ」
ミレアが満足げに笑う。
倍率は低くとも、元の賭け金が多ければそれなりの額になったのだ。
そして、ギャラリー達は賭けの結果を見届けて満足したのか、訓練場からまばらに去っていく。
シンヤ、レオナード、ミレアの三人だけが、訓練場に残ったのだった。