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「ってぇ……!」
胸にめり込む衝撃と痛みに、純が表情をクシャリと歪めると、彼にぶつかった人はフラッとよろけ、転んでしまったようだ。
「あっぶね──」
相手が男だと思ったのか、純が悪態をつきそうになるのを遮ったのは、女性の声。
「ごっ……ごめんなさいっ……!」
肩までの髪を、波打つようなヘアスタイルの女性が、地面に両手を突き、立ちあがろうとしていた。
「だっ……大丈夫ですか? 立てますか?」
純は、『危ねぇなぁっ!』と口を衝きそうになったが、言わなくて良かった、と安堵する。
女性の凛とした声色に、イラついた気持ちがシュンと失せていき、彼は代わりに手を差し伸べた。
「ごめんなさいっ……! 本当にごめんなさい!」
節くれだった手が細い指先に触れられると、女性は立ち上がり、申し訳なさそうに純を見上げる。
涼しげな奥二重の瞳と、異国情緒を漂わせている顔立ちに、彼の心臓がドクンと打ち鳴らされた。
(ヤッバ……めっちゃ綺麗な女じゃん……)
彼は穏やかな笑みを浮かべ、ニヤつきそうになるのを堪える。
「ケガはしてないですか?」
「はっ……はい。手まで貸して下さって、ありがとうございます。あなたは……大丈夫でしょうか?」
今も胸のあたりに若干痛みを感じるが、すぐに引くと思った純は、口元から白い歯を覗かせて笑顔を作った。
「俺は大丈夫です」
純の言葉に安心したのか、女性は、弾かれたように深々と頭を下げる。
「本当にすみませんでしたっ……」
彼女はチラリと後ろを振り返ると、再びペコリとお辞儀をして、純の元から小走りで去っていく。
(何だ? あの女……。でも…………すんげぇ綺麗な女だったな……)
純は、笑みが溢れ出そうになるのを抑えながら、急ぎ足で職場へ向かった。