(やっぱ俺は作業着の方が落ち着くんだよな……)
職場へ戻った純は、真っ先にロッカールームへ向かい、スーツの上着を脱ぐと、濃紺の作業着を羽織った。
進捗状況を確認するために、作業場へ足を運ぶと、部下でもあり、現場リーダーの本橋 奈美が純に気付く。
「所長、お帰りなさい。お疲れさまです」
「お疲れさま。会議が延びて、戻るのが遅くなってしまったけど、俺がいない間、トラブルはなかった?」
「はい。作業工程は順調に進んでいます」
「そうか。なら、納期に間に合うように、作業を進めてくれる?」
「了解です」
純は事務所に戻り、報告書を作成するため、パソコンを起動させた。
彼の職場は、立川の広大な工業エリア、『ファクトリーパーク立川』の中。
数多くの製造業や物流業が入居する一角に、大手事務機器メーカー、向陽商会の関連会社『向陽プリントテクニカル 東京事業所』がある。
業務用プリンターのインクトナーカートリッジを製造している会社だ。
純は、東京事業所で所長の肩書を持つ。
新卒で今の職場に入社、当時は違う社名だったが、今年の四月から向陽商会の関連会社となり、知識と経験を買われた彼は、所長に抜擢された。
今日の合同会議の内容を、純はカタカタとキーボードを鳴らしながら、報告書を作成していく。
文字を打ちながらも、不意に思い浮かぶ、立川駅前でぶつかった女。
クールな奥二重の瞳と、エキゾチックな雰囲気の顔立ちに、純の心は射抜かれた。
(あの女……すげぇ綺麗だったよな……)
気付くと、物思いに耽っていたのか、キーボードを打つ手が止まっている。
(ヤベェな。仕事しないと……)
慌てて報告書を作成していると、終業時刻を知らせるチャイムが事務所内に響いた。