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これは夢物語だ。
SF映画。子どもに夢を与える絵本。ファンタジーゲーム、現実では有り得ない空想の世界。
有り得ない……はずなのに……。
清心はこの不思議な経験に心を奪われた。大遅刻なんてどうでもいいほどの高揚感に支配されている。
会社に着いて上司に謝罪してからはずっと上の空だ。
結局丸一日、仕事は手付かずで終了した。
あの少年が気になって仕方ない。この昂った気持ちを落ち着かせる方法は一つしかなかった。
どうにかして、もう一度あそこへ行けないだろうか。その願望だけが頭の中で降り積もっていた。
しかし車に轢かれかけるのは勘弁だ。飛び出したら迷惑極まりないし、下手したらあの世行きだし。何があそこへ行く条件なんだろう。
またこっちから行くことができるはずだ。あの少年は“たまたま入ってきた”と言っていた。ということは、彼も意図的にあそこへ入ったわけじゃない。
「十時、十分……」
ふと、そんな言葉が浮かんだ。確か自分が交差点に飛び出す直前、腕時計はその時間を指し示していた。
そしてあの少年も、別れ際にその時間を言っていた。
試してみるか。
馬鹿馬鹿しいと言えばそれまでだけど、望みをかけてみよう。夜の十時、また交差点へ向かった。十時というか、正確には二十二時。果たしてこれでも有効だろうか……。
今朝の体験自体、誰にも信じてもらえない。だから行けなかったら諦めよう。疲れがたまって、とんでもない幻覚を見ていたんだと言い聞かせる。それかいっそ宇宙人の仕業でタイムワープでもしてしまったのだと。
あれが夢だとしても、もう一度だけ夢を見たい。現実を忘れる為の、夢を。
時針を確認する。信号が青に変わる。
十時十分。八、九、……十秒。
その時間に、自分だけが十字路のど真ん中に足を踏み入れた。
「わ……っ!?」
途端に、急激な目眩に襲われる。
今朝とまったく同じだ。白い光が身体を包んでいく。と同時に膨大な量の記憶が流れ込んできた。
白のスニーカーが宙に投げ出される。
そして、突き刺すような二つの光。
交差した場所の中心、白線、男の子がうずくまって泣いている。
これは…………何だ。
「あっ」
瞬きを繰り返すと、視界はようやく開けた。
本日二度目の空虚な空間。
来た……!!
感激のあまりその場で叫びたい衝動に駆られた。けどそこはグッとこらえ、ガッツポーズだけに留める。
次いで辺りを確認しようとすると、真後ろから呆れ返った声が聞こえた。
「……ちょっとお兄さん。何でまた来てんの?」
制服を着た少年。
確かに、今朝ここで出会った彼がいた。