テラーノベル
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彬と交際するようになって数か月が過ぎた頃、OBOG会を開くという連絡が回ってきた。それは、そろそろ初雪の便りが聞こえてくるだろうかと思われる時期だった。
もちろん私は参加すると返事をした。今はもう、彬を理由に参加を渋る必要はない。彬も参加する予定だが、私たちの交際はまだ周りには秘密だから、どういう顔をしていようかと少し悩む。
今では、週の大半を彼の部屋で過ごすことが当たり前となっているが、その飲み会の日も私は彼の部屋にいた。一緒にここに帰って来ようという話になっている。
身支度を済ませて彼の前に立った私を見て、彬は不満そうな顔をした。
「あのピアス、今日も着けてないんだな」
私は両方の耳たぶを指で隠した。何か月か前に、彬から婚約指輪と一緒にダイヤのピアスをプレゼントされたのだ。普段使いにするにはもったいなくて、どちらもアクセサリーボックスに大切に仕舞い込んでいた。
彼は拗ねた顔を見せる。
「本当は指輪を着けていてほしいのに、まだ周りには内緒だからって夏貴が渋るから、ピアスなら身に着けやすいだろうと思ってプレゼントしたのに……」
「だって、あんなに高いブランドものを普段使いにするなんて、落としたらどうしようって思っちゃって……」
彬の指が私の耳に伸びてきた。
さわさわと触られてくすぐったい。私は首をすくめた。
「もしも落としたってまた買ってやるよ。とにかく、指輪でもピアスでも、少なくともどちらかは身に着けていてほしい。お前が他の男に狙われないように、俺の物だって言うシルシの意味もあるんだから」
私は苦笑する。
「私を狙う人なんて、物好きな彬くらいしかいないわよ」
「まさか気づいていないのか?大学の時だけじゃないぞ。今だって、お前がうちのフロアに顔を出すと、デレた顔して見てる奴らがいるんだ」
「まさか!」
私は吹き出した。
そんな私の頭を彬は胸に抱え込む。
「お前は俺の彼女なのに」
私はくすっと笑う。
「なんで笑うんだよ」
「彬って、意外と嫉妬深いんだな、って思ったから」
「できることなら、他の男の目に映ってほしくないし、他の男に笑顔なんて絶対に見せてほしくない。お前のことが好きすぎてたまらない、俺の気持ちも分かってくれよ」
「ふふっ。私も彬が一番好きよ」
「知ってる」
彬は噛みつくようなキスで私の唇を塞いだ。唇を離し、私の頬を撫でながら彼はニヤリと笑う。
「今夜のデザートは決まりだ」
「デザート?飲み会から帰ってきたら、また何か食べるつもりなの?」
「あぁ、そのつもり」
彬は私の耳に唇を寄せて吐息と共に囁く。
「夏貴を食べるつもり」
「なっ……!」
「あはは」
彬は大きく口を開けてひとしきり笑った後、弾みをつけてソファから立ち上がった。
「さて、そろそろ時間か」
「うん」
私もまた彼に続いてソファから腰を上げ、バッグを肩にかけて玄関に向かった。彬より先に出るのは、途中で藍子と市川を拾ことになっているからだ。また、彬も彬で、今日は仕事だった辻を一緒に乗せていくことになっていた。
「それじゃあ、後でね」
「あぁ。気を付けてな」
私は彬に笑顔を見せて、玄関のドアを開けた。
予約していたタクシーに乗り、予定通りに途中で友人たちを拾い、今夜の会場である店へと向かった。畳敷きの広間に入って行った時には、すでに飲み会は始まっていた。早速空いていた席に三人で陣取る。
それからしばらくして、彬と辻が姿を見せた。
辻は私に気がつき、彬を促してこちらにやって来た。
「やぁ、久しぶり」
「辻さん、矢嶋さん、お久しぶりです!さ、どうぞどうぞ」
「ありがとう」
皆の挨拶ににこやかに答えながら、二人は私の両隣にそれぞれ腰を下ろした。
辻は辺りを眺めながらくすっと笑う。
「ずいぶんと盛り上がってるな」
市川が辻と彬にメニューを手渡しながら訊ねる。
「先輩たちの同期のみんなは向こうにいますよ。行かなくていいんですか?」
「いいのいいの。そう言えば、市川君と藍子ちゃんに会うのは久しぶりだね。夏貴ちゃんとは一昨日ぶりだけどね」
辻の言葉に藍子が反応する。
「一昨日ぶりって、どういう意味ですか?」
「あれ?夏貴ちゃんから聞いてない?今、彼女、うちの仕事を手伝ってくれてるんだよ」
辻の目線を受けて、私は頷く。
「実はそうなんだ」
藍子の目が大きく見開かれた。
「夏貴、MMテレビで働いてるの?」
「派遣だけどね」
「どうして今まで教えてくれなかったのよ」
「いやぁ、だって派遣社員としてだし、わざわざ言うようなことでもないかと」
「いやいや、派遣だとか関係なくすごいし、仕事が見つかって良かったじゃない!しかも先輩たちと一緒なら、心強いだろうしね。乾杯しなきゃだわ。だいぶ遅くなったけど、就職祝いよ」
藍子は早速ビールの瓶を手にして、私たちのグラスをちょうどいい具合に満たす。
「夏貴、おめでとう!」
彼女は明るい声で言いながら、グラスを高々と掲げた。
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