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「…うん…でも……」
言葉を区切った私の右側の落ちたバッグを持った颯ちゃんは、私の右手を握る。
私の左手のラテを抜き取った佳ちゃんは、私の左手を握る。
ゆっくりと歩き始めた二人に連れられ、家までノロノロと進みながら
「…でも…そんなこと出来ないでしょ?恵麻ちゃんの家……ここだよ」
佳ちゃんたちの家の手前にある‘白川’と表札の出た家を通りすぎた。
「そんなに会わないだろ?とにかく挨拶もいらない、無視しろよ」
「朝、自転車で一緒に事務所前まで行ってやる」
「いらないよ。恵麻ちゃん仕事辞めてるから朝会わないよ」
「何考えているかわからないクソ人間に俺らの常識は通用しない」
「自転車が嫌なら店に行く軽トラで送ってやる。とにかく一人になるな」
あまりにも熱く語られ大袈裟だとは言えなくなってきたので頷いておく。
一人になるなって…どこの護衛?
スナイパーに狙われてる人みたいだ……とまた妄想を繰り広げる脳をブンブンと振ると
「リョウコ、どうした?」
「あ、別に……」
「別にってことないだろ?」
「……」
颯ちゃん、たまに怖いんだよ…えっと……
「…トイレ……」
「ぶっ…そりゃ大変だ。鍵は?ここ?」
「自分でやるから」
颯ちゃんからバッグを奪い取り、サッと鍵を開けると
「佳ちゃん、颯ちゃん、ありがとう。おやすみっ!」
「「おやすみ、リョウ(コ)」」
ラテを受け取り家に入った……疲れた。
だけどまだまだこのあと……
二人の熱い語りが大袈裟でなかったと思い知らされる。
すごく疲れた…リラックス出来るはずのお風呂でも、心がざわつきますます疲れていく。
無心でお湯に浸かることも、無心で髪を乾かすことも出来ない。
頭と心の中にはぐるぐると、恵麻ちゃんの言葉が渦巻いている。
はぁ…眠れそうにないな…本を2冊手に取りベッドに腰掛けた時
「…ちゃ~ん…リョウコちゃ~んっ……」
深夜の住宅街に私の名前が響き渡る。
恵麻ちゃん……何?
ご近所迷惑だよ。
でもここで佳ちゃん颯ちゃんに言われた‘無視’を思い出し、とにかく部屋の電気も消した。
フットライトだけつけて本は諦め元に戻す。
「勝手に帰んないでよぉ~ねぇ~いるんでしょ~う~リョ~ウコちゃ~んっ」
完全な酔っぱらいだよね。
すぐに誰かが来たのか話し声がする。
そりゃそうだよ……遅い時間だもの。
「酔ってませ~ん……や~だっ、引っ張らないでよ~お母さ~ん」
「キャ~ッ、佳佑く~ん颯佑く~ん……おじさんも~あははっ」
「ヨシコもお~いで~……う~ん?ヨシコはヨシコ~あははっ~」・
「いいよ~って何でもするいいコちゃんのヨ・シ・コ~ォー」
……っ……白川家と間宮家が勢揃いの気配だね……
「私は悪くないでしょ~ヨシコのくせに~ムカつくのよっ!」
2階の雨戸も閉めていれば良かったけどもう遅い。
夜中に自分へ向けられる、身に覚えのない悪意に体が震え涙が溢れる。
彼女は連れて行かれたのか……
遠ざかる声に取り変わるように、自分の泣き声が大きくなった。