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正午に開宴したハヤマ ミュージカルインストゥルメンツの創業五十周年記念パーティ。
流石に国内最大手の楽器メーカーだけの事があり、沢山の招待客で会場が埋め尽くされていた。
(うわぁ……何か世界が違う……)
こんな大規模なパーティに参加するのは、瑠衣にとって初めてであり、緊張しているせいもあり気後れしている状態。
開宴から三十分程度は、ハヤマ ミュージカルインストゥルメンツの社長を始め、関連会社社長のお祝いのスピーチが数人続いた。
司会者が、歓談のアナウンスをすると、侑が『行くぞ』と言い、年配の男性の元へ向かっていき、瑠衣も付いていく。
「葉山社長。大変ご無沙汰しております」
侑は、その男性に深々と一礼している。
その方は開宴後すぐに挨拶をしたハヤマ ミュージカルインストゥルメンツの社長、葉山 武だ。
「侑くん。久しぶりだな。随分と立派になって。君のドイツ留学時の活躍ぶりは、私の耳にも入ってきたよ」
笑顔で答えた葉山社長が、不意に悲しげな表情に変化していき、小声で話を繋げた。
「お父様とお母様の事は…………私も息子たちも驚いて…………侑くんのご両親は、クラッシック界の宝だったし、残念でならないよ」
言われて侑が神妙な顔つきで会釈している。
その後、葉山社長が瑠衣に気付いたのか、チラリと視線を向けた。
「こちらの女性の方は、侑くんの恋人かな?」
唐突にそんな事を聞かれた侑は葉山社長に、はにかむような表情を見せている。
「いや…………彼女は私の教え子です。七月に帰国して……偶然再会しまして……」
そこから彼は言葉を濁したが、瑠衣は図々しいかな? と思いつつ挨拶をする事にした。
「初めまして。立川音大在学中に響野先生にお世話になりました、九條瑠衣と申します。本日はお招き、ありがとうございます。ハヤマ ミュージカルインストゥルメンツ創業五十周年、おめでとうございます」
「ありがとうございます」
葉山社長は、穏やかな笑みを見せながらお礼を言ってくれた。
(響野先生のはにかんだ表情……レアだよね……)
そう考えながら挨拶を済ませると、葉山社長は侑と瑠衣を交互に見ながら、思いもよらない事を彼に言った。
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