暗殺ターゲットとナイト
「人間様にもお母様がいらしてたんですよね」
「はぁ…?何だ急に」
食事を終え部屋で大人しくしていると,隅のメイドが急に話しかけて来た
「人間様の情報が少なすぎるのです。ご飯を共に食べていく仲間であるのならば多少気にしなければ」
「どっちかと言えば敵だけどね」
「そんな事ないですよ!」
「それに母親がいた頃の記憶なんてないよ…歳が2桁行く前に死んじゃったんだから」
未だに覚えてる記憶は住んでた家くらいだ
広い家の癖に…心はいつも独りだったな
「父親も母親も研究員で…ほとんどsumoに育てられた記憶しかない」
「なるほど,貴方について少し分かった気がします!」
(こいつ…まぁ所詮ロボットだし…)
開けっ放しの窓からポツポツ雨が入ってくる
いつの間にか空一面雲で覆われていて肌寒い外の空気が腕に伝う
(さっきまでいい天気だったのに)
昼頃__
「すっかり土砂降りだな」
廊下の窓から外を覗くと
勢いの強い雨が地面に叩きつけられそこら中大きな音で響いていた
窓に降り掛かる雨の音は,まるでガラスを割る勢いだ
(不思議なものだ…ちょっと前まで雨宿りする場所すら探すのに苦労したというのに)
窓から離れ廊下を歩き出す
しかしやることが無い。
屋敷内は雨という事もあり一際ロボットの作業音が多かった
ホールを階段上から見ながらロボットの清掃をボーッと眺める
「……退屈」
ふと脳裏にあの男の姿が浮かんだ
何故か知らないが、今あの男は油断している気がする__
ロボットの1人が視線を感じホールの階段を見上げるが、そこには既に誰もいなかった
「ゴホッゴホッ…!」
フラフラとした足取りで机に手をつけ片手で口元を抑える白衣の男
綺麗に整えられていた本棚から、床へと本が大量に散らばっていて足の踏み場も無い
青白い顔でようやく自分の椅子へと付き,手に持った一冊の本を机へと置く
そのまま机の引き出しへと手を掛け,ケースから錠剤を取り出すと口に入れる
薬の効果が出るまで机の上で肘をつき呼吸を整える
薄暗い電気もついてない部屋の窓は雨音が強く響いていた
すると突然、静かだった部屋の扉が乱雑に開かれると女が独り拳銃だけを持って入ってきた
「お邪魔しマース、暇なので殺しに来ました〜」
「……!」
「うわっ!何だこの部屋!散らかり過ぎだろ」
「それ以上寄るな…」
部屋へと足を踏み込むと男が苦しそうな低い声で喋ると女の動きが止まる
「お前……苦しいのか?」
しかし男は答えない、睨みつけられた目はまるで獣みたいだ
弱っている絶好のチャンスだと言うのに初めて味わう圧力に,体が動かない
「…ッ……」
「失せろ」
苦しそうに下を向き咳を混む
再び視線を上げると,女は既に居なくなっていて…誰も居ない扉がギィ…と閉まる音がした
「はぁ…っ…はぁ…っ……!」
腕の震えが止まらない…やっと動き出した足は動きを止めず只管男の部屋を離れていく
手を胸元で抑え込み震えを無理やり止めようとする。頭のどこかの記憶に…あの顔…声と似たものを勝手に連想させた
その男もまた白衣を着ていて…
「…ッ…ク…お父さん…」
膝から崩れるように座り込む
遠い昔の苦しい記憶が蘇った。私の父親は私を__
そんな姿を目撃したロボットは,慌てながら女の元へ近付いていった
「何があったんですか?」
いつもの部屋に戻った女は布団に潜り込みそこから何も話さない
「気分がリラックス出来る紅茶と菓子を持ってきましょうか…?」
「大丈夫…」
するとロボットの体からピロンと音が鳴る
その瞬間,ロボットは慌てるように部屋を後にした
開けっ放しの扉からいつも以上に騒がしい音が聞こえ,耳を押し潰す
次第に音は小さくなり扉が静かに閉まる音がする
コツコツ…と足音が接近するのを確認する
(あいつか…?)
脈拍が耳にまで響くように聞こえる
足音が布団のそばで止まると,布団を思い切り引っ張られた
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