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その言葉の意味を飲み込むまでに、数秒かかった。
まるで、時間が止まったかのような感覚。
その一言が、俺の思考を全て停止させた。
そして、意味を理解した途端、心臓が思い切り跳ね上がる。
全身の血の気が引くような
それでいて一気に熱が駆け巡るような感覚。
「っ……」
息が詰まった。
視線を合わせられない。
主任の顔を、真っ直ぐに見ることができない。
羞恥と、恐れと、そして微かな希望が入り混じった感情が俺の目を伏せさせようとする。
けれど、ここで目を逸らしたら
何かから逃げたことになる気がして、どうしても俯くこともできなかった。
赤くなった顔が熱いのは、自分でもわかる。
耳まで熱を持っているのがわかる。
全身の毛穴という毛穴が開いて、そこから熱気が噴き出しているかのようだ。
声がうまく出せない。
喉がカラカラに乾いて、うまく言葉が組み立てられない。
頭の中は真っ白で、何も考えられない。
それでも、ここで逃げたくなかった。
この感情を、この思いを
嘘偽りなく伝えたい。
時間が止まったような部屋の中で
「……す、好きです……」
自分の、情けないほど震える声だけがやけに響いた。
やっと絞り出した言葉は、情けないほど弱々しかった。
か細く、今にも消え入りそうな声。
それでも、それが俺の精一杯の告白だった。
けれど、それだけじゃ足りない気がして、思わず言葉を継いでしまう。
「俺なんかに、好かれても……主任、困ると思いますけど……っ」
最後の言葉は、情けなくかすれた。
情けなさで、また涙が滲みそうになる。
こんな自分では、主任の隣に立てるような人間じゃないのは解っている。
ただの部下で、しかも迷惑ばかりかけている俺が
こんな感情を抱くなんて、きっと主任にとっては迷惑以外の何物でもないだろう。
尊敬とか憧れとか、そんな言葉じゃもう収まりきらなくなっていた。
この胸の奥に、ずっと、ずっと閉じ込めていた
真っ直ぐな「好き」という感情
好きになってしまったのは、俺のほうだ。
迷惑だったら、それでいい。
それでも、伝えたかった。
すると、その言葉を聞いた烏羽主任は、先ほどと変わらない、平坦な口調で言った。
「まあ、確かに困るな」
ぐさりと、その言葉に胸を刺されたような痛みが走る。
同時に、自分でも薄々気づいていたことに改めて直面したような感覚もあった。
彼の言葉は、あまりにも冷静で、俺の感情など全く揺り動かされていないかのようだった。
それでも、彼の言葉の続きを待つように、再び沈黙が部屋を包んだ。
その間、俺はただ、彼の次の言葉を待つことしかできなかった。
「可愛すぎて、困る」
予想外の言葉に顔を上げると
酷く優しい表情で俺を見ている烏羽主任がいた。
「烏羽主任……っ?…うっ、ごほ…っ」
しかし、泣いたせいか、喉がひどく渇いていた。
声を出したことで、さらに喉の奥がヒリヒリする。
「…うっ…すみません…喉、乾いて…」
と、俺が小さく言うと、烏羽主任の返答は、少し歯切れが悪かった。
「…あぁ、ちょっと待ってろ」
かと思えば、主任はすっと立ち上がった。
彼の動きは、常に無駄がなく、流れるようだった。
部屋のミニバーから、ミネラルウォーターのボトルを手に取る。
音もなく俺のベッドの横に戻ってくると、再び腰を下ろした。
そして、軽くキャップをひねって開けた。
カチリと鳴る小さな音が、妙に耳に残る。
「今飲ませてやるから」
その言葉に、俺は思わず顔を上げた。
飲ませてやる?どういうことだろう。
自分で飲めます、と言おうとして、その言葉は途中で止まった。
彼の視線は、俺の唇に向けられていた。
抗議の言葉も、彼の静かな圧力の前では意味をなさない。
「いいから」
そう言って、主任はボトルを傾け、自分の口に水を含んだ。
え、飲むの主任のほう?
混乱する間もなかった、次の瞬間
強く背を引き寄せられた。
ぐっと、背中に回された腕に、引き寄せられる。
身体が主任の逞しい胸に当たる。
予想外の出来事に、不意を突かれて目を見開いたまま
言葉も出せずにいた俺に、主任の顔がすっと近づく。
「ん……っ?!」
柔らかく、でも、ためらいのない動きだった。
主任の唇が俺の唇に、ゆっくりと、しかし確かな意思を持って重なる。
思考が止まった
呼吸も忘れて
ただ、彼の唇の感触に集中する。
唇が触れ合った瞬間、冷たい水が流れ込んできた。
彼の口から、直接、俺の口へと注がれる水。
それを零さないように、俺は必死にごくごくと飲む。
ひんやりとした液体が、喉の奥へと落ちていく。
息を吸おうとしても、逃げ場がない。
ただ、彼の口から注がれる水を受け止めることしかできない。
「んん…っは…」
息をつく間もなく、唇を塞がれる。
また冷たい液体が流し込まれる。
飲み込み切れなかった雫が、俺の唇からこぼれ落ちた。
それを拭うように、主任の舌先が唇に触れる。
ぞくりと、背筋に痺れるような快感が走った。
頭が痺れたように思考がまとまらないまま、濡れた感触が頬に触れる。
冷たいはずの水なのに、身体は熱い
怖いのに、心地いい
この矛盾した感覚に、俺の感情はぐちゃぐちゃになる。
思考も、抵抗も、浮かばなかった。
ただ、目の前の現実を受け入れるしかない。
ぼうっとした頭で、主任の瞳を見つめる。
そこには、普段の冷静さとは違う、どこか計算の読めない光があった。
吸い込まれそうなほど深い瞳。
その瞳に映る俺は、果たしてどんな顔をしているのだろうか。
唇が離れると、ほんの少しだけ水がこぼれ
顎をつたって首元へ落ちていく。
冷たい水滴が、熱を持った肌の上を滑り落ちる感触に全身の神経が集中する。
「……飲めたな」
低く、淡々とした声が耳元で囁かれた。
まるで、それが当然の行為だったかのように。
その声は、いつもと変わらない冷静さを保っていたけれど
その響きは、俺の心臓を激しく揺さぶった。
「し、主任…な、なんで……?」
はくはくと口を動かして、やっとのことでそう絞り出した。
混乱と動揺で、言葉がうまく出てこない。
しかし、烏羽主任は「さあな」と言ったきり
俺の腰を抱き寄せると、そのまま再び唇を重ねてきた。
今度は、水を注ぐためではない
もっと深い意味を持つキス
熱い
唇が触れ合うたびに、体温が上昇する。
「しゅに……っ、そんなこと、されたら……」
熱っぽい呼吸を繋ぎながら、俺は必死に言葉を吐き出す。
耳まで真っ赤になっているのが自分でもわかるほど、体温が異常に上がっていた。
この行為は、何の意味を持つのか。
期待してしまいたくない
でも、期待せずにはいられない。
「俺……っ、勘違い、しちゃいます、から……っ」
やっとの思いで吐き出した言葉
本気で好きだからこそ、期待したくなってしまう――
それが一番怖かった。
主任にとって、今の行為が一時の気まぐれであってほしくなかった。
もしそうだとしたら、この感情が
この思いが、簡単に打ち砕かれてしまう気がした。
でも。
「……すればいい」
耳元でささやかれたそのひと言に、全身が震えた。
ああ、だめだ。
この言葉は、俺の抑制を全て吹き飛ばす。
それは、俺にとって、どれほどの甘い誘惑だろうか。
次の瞬間、唇が強く塞がれる。
先ほどの口移しのそれとは違う。
熱があって、欲があって、まるで喉の奥にまで支配の意志を注ぎ込まれるような
深くて貪るようなキス
ビクンと肩が震えた
息ができない。
でも、気持ちがよくて
嬉しくて、怖くて、でも嬉しくて――
頭が真っ白になる。
彼の舌が、俺の口内を蹂躙して舌を絡め取る。
俺の舌は、逃げようとして
でもすぐに捕まって、甘く溶かされていく。
「……やだ、主任……だめ……っ、ほん…とに、諦められなく、なっちゃ……」
唇が離れた瞬間に漏れた言葉も、もう止められなかった。
限界を超えた感情が、言葉となって溢れ出す。
けれど主任はそんな俺の抗いすら、ただ黙って受け止めるように見下ろしてそっと目を細めた。
その瞳の奥には、確かな熱と、強い意志が宿っているように見えた。
「俺はそのつもりだ」
「え……」
思わず動揺した俺を制すように、彼はベッドに押し倒した。
背中が柔らかいシーツに沈み込む。
覆い被さるようにして、シャツに手を掛けてきた。
ボタンに触れる指が、俺の心臓をさらに早くする。
「あっ……や、やめっ……やだ、主任…!」
俺の制止など意にも介さず、ボタンを一つ
また一つと外されていく。
ぱちん、ぱちんと、布地がはだける音がやけに大きく響いた。
冷たい空気が肌に触れ
自分の裸が露わになる羞恥心で、思わず顔を背けた。
しかし、烏羽主任は構わずに、俺の首筋から鎖骨の辺りへと唇を押し当てていく。
ひんやりとした唇の感触が、ゾクリと背筋を震わせた。
「……んっ」
くすぐったくて、でもそれだけじゃない感覚に身体が震えた。
吐息が肌にかかり、鳥肌が立つ。
そのままゆっくりと下へと降りていき、胸の突起を口に含む。
ちゅ、と吸い上げられる音
生暖かい感触に包まれ、舌先で弄ばれる感覚に
自分の口から高い声が漏れる。
「あ、あっ……や、だめっ……」
恥ずかしさに身を捩って逃れようとするが
主任の腕に強く抱きしめられていて、身動きが取れない。
その間も、彼の口は執拗に甘く責め立て続ける。
快感の波が、次から次へと押し寄せてくる。
「……っ」
やがて、片方の手が下肢へと伸ばされたかと思うと
ズボンの中に手を差し込まれる感覚があった。
ひんやりとした指が、直接肌に触れる。
そのまま下着越しに自身に触れられて、思わず腰が跳ね上がる。
「ひっ……ぁ……!」
布越しでもわかるほど熱く硬くなったそれを
優しく握りこまれ、上下に扱かれる。
それだけでもう、どうにかなりそうだった。
「や……っあ、あっ……ん」
身体が勝手に反応してしまう。
主任の指先が先端に触れる度、甘い痺れが全身を襲う。