TellerNovel

テラーノベル

アプリでサクサク楽しめる

テラーノベル(Teller Novel)

タイトル、作家名、タグで検索

ストーリーを書く

シェアするシェアする
報告する

世界は、静かだった。

少なくとも___この目に映らないものを、見ない人たちにとっては。

夜の路地には、誰もいない。

そう思われている場所に、彼らはいた。

壁に溶ける影。歪んだ笑み。名前を持たない何か。

妖怪と呼ばれる存在たちは、人の視線の外で息をしている。

___そして、そのすべてが、少年には見えていた。

見えてはいけないものが見える。

それだけで、この世界はひどく生きづらくなる。

「気持ち悪い子」

「変なことを言うな」

「そんなもの、いるわけがない」

大人の声と、鈍い音。

感情のない暴力は、理由を必要としなかった。

少年は学んだ。

見えることは、言ってはいけないことだと。

家の中は、いつも冷たかった。

人の形をした怒りがうごめき、

言葉にならない考えが、空気を汚していた。

そしてある日、

少年は”不要なもの”として、外に置かれた。

夜。

寒さよりも、静けさの方が怖かった。

妖怪たちは、こちらを見ている。

だが、手は伸ばさない。

___人の世界の出来事だから。

そのときだった。

「……この子、連れて帰ろう」

低く、落ち着いた声がした。

命令でも、同情でもない。

ただ、そう決めただけの声。

振り向くと、五人の大人が立っていた。

誰も、同じ目をしていない。

少し距離を取って。

近づきすぎず、触れもしない。

まるで、壊れやすいものの扱い方を、よく知っているみたいに。

最初に動いたのは、柔らかい目をした人だった。

見下ろすのではなく、

少年と同じ高さまで、静かにしゃがみ込む。

「寒いな」

それは質問でも、慰めでもなかった。

ただの事実。

少年は答えなかった。

答え方を、忘れていた。

別の一人が、路地の奥を見る。

誰もいないはずの暗がりを、

何度も確かめるように。

「……もう、いない」

何が、とは言わない。

けれど、その声には確信があった。

三人目は、少年を見ていた。

目ではなく、

もっと奥を見ているような視線で。

「……よく、生きてたね」

褒めるでも、驚くでもない。

ただ、確かめる言葉。

四人目は、少し遅れて息を吐く。

「想像より、ずっと……」

続きを言わず、黙る。

最後の一人は、五人の1番後ろに立っていた。

怒っているようにも、冷たいようにも見える。

けれど、その視線は、少年から一度も外れない。

「連れて帰る」

短く、それだけ。

少年の肩が、わずかに揺れた。

――帰る。

その言葉は、

もう使われないものだと思っていた。

「……大丈夫だ」

最初にしゃがんだ人が、静かに続ける。

「君が見てるものも、

君が黙ってきたことも、

ここでは責めない」

喉の奥が、ひりついた。

見える。

見ている。

それを、言ってもいい場所。

怖さが、遅れてくる。

期待したら、また壊れるかもしれない。

信じたら、また捨てられるかもしれない。

それでも。

「……行こう」

誰かが言った。

五人は、誰も手を引かなかった。

代わりに、

少年が歩き出すのを、待った。

一歩。

震えながら、前に出る。

妖怪たちは、路地の端でそれを見ていた。

影に溶けながら、

小さく、小さく頷く。

___よかったな。

___今度は、人だ。

___ちゃんと、見えるやつらだ。

少年は、振り返らなかった。

けれど、

背中が少しだけ、軽くなっていた。

夜の路地は、まだ暗い。

彼は初めて知った。

この先に続く道が、

完全な闇ではないことを_______

loading

この作品はいかがでしたか?

70

loading
チャット小説はテラーノベルアプリをインストール
テラーノベルのスクリーンショット
テラーノベル

電車の中でも寝る前のベッドの中でもサクサク快適に。
もっと読みたい!がどんどんみつかる。
「読んで」「書いて」毎日が楽しくなる小説アプリをダウンロードしよう。

Apple StoreGoogle Play Store
本棚

ホーム

本棚

検索

ストーリーを書く
本棚

通知

本棚

本棚