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フレアとシンカの戦いが始まろうとしている。

今は入学式だし、止めてやる必要がある。

だがその前に、実力のほどを少し見せてもらうことにしよう。


「いくわよっ。……揺蕩う炎の精霊よ。契約によりて我が指示に従え。火の弾丸を生み出し、我が眼前の敵を滅せよ。ファイアーバレット!」


ドドドドド!

多数の火の弾丸が生成され、シンカに向かって射出される。

なかなかの威力と連射速度だ。

しかし――


「ふん。僕には通用しないよ。……慈しむ水の精霊よ。契約によりて我が指示に従え。水の壁を生み出し、我が眼前の脅威を防ぎ給え。ウォーターウォール!」


バシャッ!

大質量の水が生成され、シンカとファイアーバレットの間に壁を作り出す。

防御用の魔法なので、もちろん攻撃力はない。

しかし、これほどの質量の水をわずかな時間で生成し、壁状に制御するとはかなりの実力である。


じゅわっ。

ファイアーバレットはウォーターウォールに阻まれ、消化された。


「意外とやるわねっ! なら、次は……」


「そうはさせないよ。今度はこっちの番だ。……慈しむ水の精霊よ。契約によりて我が指示に従え。水の槍を生み出し、我が眼前の敵を貫け。ウォータースピア!」


シンカが負けじと反撃する。

水で生成された槍が、フレアを襲う。

流体とはいえ、高い魔力で制御された水の槍による貫通力は侮れない。


「ちっ。生意気な人族め!」


フレアがひらりと躱し、そう毒づく。

戦況は拮抗している。

お互いに防御力も高いし、放っておいても大事にはならないか?

余は一瞬そう感じたが——


「ファイアーバレット!」


「ウォータースピア!」


フレアとシンカの攻撃魔法が交差し——


「「「うわあああぁっ!!!」」」


周囲にいた生徒たちがそう悲鳴を上げる。

本人たちは大丈夫でも、周囲の者たちは無傷とはいかない。

やはりここは、止めてやることにしよう。


「へえ。人族の割にはやるじゃないの」


「ふん。そっちこそ、大口を叩いた魔族様の割には大したことないね」


フレアとシンカが口論を繰り広げる。


「言ったわねっ! これで決めるわ。はああ……!」


「僕も本気を出すよ! ふぅうう……!」


彼女たちの魔力が練り上げられていく。

これまで使っていた魔法より、ひと回り上の大技を発動する心づもりだろう。

余は、2人の間に向けてジャンプし、降り立つ。


「そこまでだ。愚か者どもが」


余は2人にそう言う。

新入生代表の挨拶に選ばれた彼女は、入試における成績優秀者である。

つまり、順当に成長すれば、今後の魔族と人族の平和と発展を引っ張っていく人材なのだ。

このようなつまらぬ意地の張り合いなどしているようでは、残念ながら器が知れる。


「何者っ!? ケガをしたくなければ、そこをどきなさい!」


フレアがにらんでくる。

なかなかの迫力だが、言っていることはそれなりに理性的だ。

闖入者を問答無用でぶちのめしたりはしないらしい。


「そうだね。これは人族の誇りを掛けた戦いだ。君のような下級の魔族にジャマされるわけにはいかない!」


シンカがそう言う。

こちらも、強引に排除しようとはしていない。

こんな状況でも、最低限の判断能力は持っていると言えるだろう。


「双方、その魔力を抑えろ。さもなくば……」


俺はそう警告する。


「さもなくば何!? ここまで来て、退けるものですか!」


「同感だね! 巻き込まれたくなければ、さっさとどきなよ」


フレアとシンカがそう言う。

両者、まだまだ戦闘意欲旺盛である。

体に蓄積した魔力は、もはや爆発寸前だ。

もう間もなく、攻撃に移るだろう。

しかし、余はその前に——


「マジック・キャンセル」


ふっ。

フレアとシンカの立ち上る魔力が、消え失せた。


「なっ!? 私のレーヴァテインが……?」


「僕のアマリリスも……?」


彼女たちが愕然としている。


「あなた、何をしたのっ!?」


「別に大したことはしておらぬ。ただ、魔法の発動を止めただけだ」


フレアは激昂して余をにらみつけているが、余は意に介さない。


「ふざけないで! そんなことができるはずがないわ!」


「そうだよ! 魔法をキャンセルするには、その魔法の構築式を全て把握しておかなければならない。初級魔法ならまだしも、僕の上級魔法を止められるわけない!」


フレアとシンカが口々にそう言う。

お前ら、結構息が合っていないか?


「では、目の前で起きた現象をどう説明する気だ?」


「ぐぬうっ!」


「それは…………」


フレアとシンカが悔しそうな声を上げる。

答えられないようだ。


「お前たちの勝負は、余が預かる。これ以上戦う意思があるならば、少々痛い目に合ってもらうぞ?」


「「ううううぅ~!!」」


2人は恨めしそうに余をにらんでいる。


「そのような顔をしている場合か? 周りを見てみろ」


「周り……?」


シンカが周囲を見回す。


「うう……。痛えよぉ……」


「しっかり! 今、治療魔法を掛けてあげるわ」


腕をケガした人族の少年を、魔族の少女が介抱している。


「建物に火が付いているわ!」


「俺たちに任せろ! 水魔法なら得意だぜ!」


魔族の少女が指差した先の火元に向けて、人族の少年たちが水魔法を射出する。

ちゃんと、魔族と人族で協力して事態の沈静化にあたっている。


「魔族と人族が争う時代は終わったのだ。これからは、共に手を取り合うべきだ。貴様たちは、なぜそれができぬ?」


「そ、それは………。だって、魔族は人族を殺すために魔法を使うじゃないか!」


シンカがそう叫ぶ。


「人族だって、魔族を滅ぼすために魔法を使っているわ!」


フレアが負けじとそう反論する。


「それは過去の話だ。この場に、お前たち以外に他種族を害そうという者はおらぬ」


「くっ!」


「確かに、君の言うことにも一理ある……」


余の言葉に、フレアとシンカが考え込む。


「わかった。この場は引くことにするよ」


「ふん。私も、同意するわ。脆弱な人族をいたぶったら、私の魔法がかわいそうだもの」


そう言って、2人が引き下がる。

これで一件落着だ。


その後は、つつがなく入学式が進行していった。

魔族と人族の首席合格者がそれぞれ過激派なのは頭が痛いところだが、一般入学者がまともなのはせめてもの救いか。

フレアとシンカさえ何とかすれば、平和な学園生活となるだろう。


……ん?

余は、伴侶となる者を探しにこの学園に来たはずなのだが……。

いつの間にか、不出来な同級生の指導に頭を悩ませることになっておるな。


まあいい。

フレアやシンカと関わるのも、学園生活のうちだ。

いい出会いに繋がる可能性もある。

せいぜい、導いてやることにしよう。

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