身長差のある不恰好なふたつの影が
コンクリートの上で不安定に揺れている 。
無意識か否か 、 長い踋で窮屈そうに
歩幅を合わせてくれている彼 。
そんな彼を横に空を眺める 。
今日の空は何時にも増して複雑だった 。
朱色 、 橙色 、 蒼色 、 水色 、 紫色
何れにも当てはまる様で 、
何れにも当てはまらない 。
決して一言では言い表すことが出来ない 。
そんな夕暮れ時のこと 、
君は私の耳に届くか否か
ギリギリの声量で呟いた 。
些か掠れた 、 弱々しい
それでいて芯の有る声だった 。
「 俺は羽優の事 、 一生好きだと思う 。 」
空を見上げながら 、 何の脈略も無く言った 。
「 何急に 笑 」
突然そんな事を言われ頬が火照る 。
無性に彼の顔が見たくなって横顔を見詰める 。
不覚にも綺麗だと思った 。
天性の二重眼は横から見ると儚げに映る 。
瞬きをする度に何も手を足していない長い睫毛がスローモーションの様に揺れ動いて
‘ 嗚呼 、 好きだな ’ なんて考える 。
そして 、 彼の事を見詰めながら思う 。
此の時 、 優しく微笑んで ‘ 私もだよ ’ なんて
言えば良かっただろうか 。
でもそんな事を言える程 、 自信は無かった 。
恋愛なんてどうせ途切れる 。
男なんてどうせ浮気する 。
人なんてどうせ何時かは死ぬ 。
腐った思考回路は 君の言葉を信じ切ろうとはしなかった 。
「 羽優の事は何があっても嫌いにならない 」
恐らく彼は真剣だった 。
必死に伝えようとしてくれていた 。
其れでも私は
彼の言葉は全て信じてみたい 、 なんて
思えなかった 。
「 照れるなぁ 、 ありがと 笑 」
好きなのに
上辺だけの笑みになってしまう 。
そんな自分に嫌気が差した 。
そういう自分の積み重ねが私の心を侵した 。
空が紺碧色を帯び始める 。
今日もまた夜が訪れる 。
紺碧色が濃くなる度に
ふたつの影は離れ 、 薄くなってゆく 。
「 じゃあ 、 またね杜真 ! 」
「 おう 、 明日なー 」
右手をひらりと振り 、 歯を魅せて笑う彼 。
今日もまた 、
街灯の少ない暗がりへと姿を消して行く 。
雲が薄ら掛かった月が
今にも消えてしまいそうだった 。