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うまくいった。ここまでミハルの気持ちを掴んでいたとは、我ながら感心する。
始めは、お金のことでミハルには心配かけたくないと伝え、でもそうすると会えなくなると言う。そうすればあのミハルは自分からお金を出してくるだろう。俺に会いたいという気持ちが強ければ、そのために俺に金を渡してくるはずだ。思った通りだった。一回成功すればあとは簡単なことだ。
“愛してる”
“会いたい”
“ミハルだけだよ”
俺だけのATMの暗証番号のようなものだ。そんなに大した額ではなかったが、ミハルは
出してくれた。いろんな口実をつけ、何回か振り込んでもらった。少しずつでも回数を重ねて総額が100万を超えた頃、だんだんと出し惜しみをするようになってきた気がする。
___家庭があるから、そんなに自由になる金はないのだろう
それくらいの想像はつく。でも、俺に出してくれるお金が俺に対する気持ちのような気がして、その金額以上にうれしかった。
ミハルが出してくれたお金は、ほとんどそのままとってある。いつか、この窮屈な暮らしから抜け出すための資金にしようと思う。もちろんそんなこと、ミハルには言わないが。
そろそろミハルが出せるお金も限界かなと思う頃、スマホ代の請求だからと二万をお願いしてみる。わざわざ持ってきてくれるらしいから、会って感謝を込めて抱くことにした。
…が、なんとなくミハルの気持ちがここにない気がする。
「あの、この前も言ったけど。お金は返してもらえるんだよね?私もそんなにないから」
___そういうことか、それならば…
こんなこともあるかと用意しておいた安全策をここらで出しておく。
「そうだ、これ!」
思い出したように、財布から封筒を取り出してミハルの前に出す。
「これ、何?」
「これまで借りてたお金の、ほんの一部だけど。これだけ用意できたから返しておこうと思って」
「え?どういうこと?」
「ミハル、不安でしょ?俺がちゃんと金を返さないんじゃないかって。だから、ちょっとでも返せる時に返しておこうと思ってね」
こんなこともあるかと、用意しておいたお金の4万円が入れてある。あくまでもこれまでの返済であると強調しておく。万が一詐欺罪で訴えられたりしても、言い訳できるように。
「返してくれるの?これ」
「少なくてごめん、残りも必ず返すから」
ミハルの顔が明るくなった。お金を返してもらえると安心したのだろう。返さないつもりはない、いつかきっと返す。だけどそれがいつになるか自分でもわからない。だから念のために一部を返済しておく。
「ランチ、行こうか?」
「じゃあ、焼肉が食べたいな」
「わかった。翔馬はこの辺り詳しいでしょ?案内してくれる?」
「いいよ、知ってる店がある」
「ご馳走するね」
「ありがとう、ミハル。最近いいもの食べてないからうれしいよ」
そしてまた抱きしめる。真っ直ぐに俺を見るミハルをもう一度、抱きたくなった。俺という存在を真正面から信じてくれる唯一の女。
「愛してるよ、ミハル。ねぇ、もう一回、ダメ?」
このまま俺のものになればいいのにと叶うはずもない願いを抱き、叶わない現実に苛立つ。そんな感情を読まれないように、荒々しく突き進む。
「あ、そんな…ダメ…」
言葉とは裏腹な反応に、ひとまずホッとする。
___大丈夫だ、これからもミハルの心と体は俺のものだ
カラダだけではなく、お金というつながりもあるのだから。