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#戦国時代
眠狂四郎
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#戦国時代
眠狂四郎
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眠狂四郎
153
世界を統べる神クロノスには三人の息子と一人の娘がいた。
雷神トール。
海神ポセイドン。
天神ゼウス。
そして太陽神ラー。
しかしクロノスは予言を恐れた。
――いつの日か、自らの子に滅ぼされる。
神は恐怖し、我が子を次々とその腹へ飲み込んだ。
だが末子ゼウスだけは違った。
母は石を布で包み、ゼウスの代わりに差し出した。
クロノスはそれを飲み込み、欺かれたことに気づかなかった。
やがて成長したゼウスは父へ戦いを挑む。
天は裂け、海は荒れ、雷は世界を焼いた。
そしてゼウスは父を討ち、神々の王となった。
ゼウスは兄妹たちを解放し、
父クロノスを打ち倒した。
そして世界を分け与えた。
雷神トールには大地を。
海神ポセイドンには海を。
太陽神ラーには空を。
そして自らは天を治め、
神々の王として君臨した。
神々はそれぞれの地で栄え、
世界は長き平和を迎えた。
だが――
ある日から、ゼウスは同じ夢を見るようになる。
玉座の上で首を垂れる自分。
足元には砕けた雷霆。
そして闇の中から伸びる無数の人の手。
王よ。
次はお前の番だ。
その囁きとともに、ゼウスは目を覚ます。
額には冷たい汗が滲んでいた。
父クロノスもまた予言を恐れた。
そして滅びた。
神々の王となった今、
ゼウスは初めて理解する。
王座とは、座った瞬間から奪われることを恐れる場所なのだと。
黒い岩山。
永遠の罰を受ける神は、今日も鎖につながれていた。
両腕を縛る神鉄の鎖。
砕けることなく、外れることもない。
風が吹き荒れ、雲が流れていく。
その前に、一人の神が立っていた。
神々の王ゼウス。
黄金の冠を戴く天空の支配者。
だが、その顔にはかすかな疲労が浮かんでいた。
「言え、プロメテウス」
低い声が響く。
「我を殺すのは誰だ」
「私の作った秩序に従わぬものは誰なのだ」
鎖につながれた神は顔を上げた。
そして鼻で笑う。
「ふん」
かすれた声だった。
「知らんな」
「嘘をつけ」
ゼウスの目が細くなる。
雷鳴が遠くで轟いた。
しかしプロメテウスは動じない。
「知らぬと言った」
「ならば聞き方を変えよう」
ゼウスは一歩近づいた。
「この悪夢は何だ」
「なぜ我は滅びを見る」
沈黙。
やがてプロメテウスはゆっくりと口を開く。
「夢に怯えるか」
その声音には哀れみすら混じっていた。
「父クロノスを笑えぬな」
ゼウスの拳が震える。
「答えろ」
「答えぬ」
プロメテウスは空を見上げた。
流れる雲の向こう。
はるか未来を見るように。
「夢におびえる哀れな王よ」
「永遠に悪夢にさいなまれるがいい」
「それがお前への罰だ」
風が吹いた。
ゼウスはしばらく黙っていた。
怒りで震えているのか。
それとも恐怖か。
やがて神々の王は背を向ける。
去っていくその姿を見ながら、
プロメテウスは小さく呟いた。
「……だが安心しろ」
「お前を滅ぼすのは神ではない」
その言葉は風に消えた。
ライナーはイスカンダル包囲の完成を受け、海路イージプへ向かっていた。
穏やかな風が帆を膨らませる。
「しかし、ライナー王は退屈しませんな。」
同じ船に乗るオーストリア先生が、くすりと笑った。
「何がですか。」
「神々は借金をして戦争などしませんよ。」
ライナーは苦笑する。
「アグリにも言われました。」
「これ以上重税を課せば、民がいなくなりますよ、と。」
オーストリア先生は声を上げて笑う。
「それこそ、人間らしい。」
「神々は雷一つで山を砕きます。」
「ですが人は、金貨一枚、麦一袋を積み重ねなければ軍は動かせない。」
「それでも神々は人を恐れるのですか。」
ライナーが何気なく尋ねる。
オーストリア先生は少しだけ笑みを消した。
「ええ。」
「だからこそ、恐れるのでしょう。」
ライナーは、ついにイスカンダルの土を踏んだ。
イモホテップが神殿へ火を放つ、二日前のことである。
季節は、夏の終わりを迎えようとしていた。
マウロソスは、イモホテップが配置した百名の死兵とともに、
女王を守るため神殿を固く守備していた。
やがて神殿から炎が立ち上る。
しかし、マウロソスの防衛線は微動だにしなかった。
「ご報告します。」
「先ほど、神殿の女王陛下より使者が参りました。」
「ライナー王と話し合いたいとのことです。」
ライナーは静かに問い返す。
「……アントンは、あの中にいるのか。」
「おそらく。」
ライナーは迷わず立ち上がった。
「会おう。」
「何を恐れることがある。」
この歴史的な会談について、グラン王国の公式記録は一切その内容を伝えていない。
何が語られ、何が約束されたのか。
それを知る者は、もう誰もいない。
ただ一つだけ、後世へ伝わった事実がある。
ライナーは、女王の最後の望みをすべて受け入れたこと。
そしてシャチトルは、何一つ答えることなく、静かに神の国へ旅立ったことだった。
シャチトルは、自らアントンの葬儀の支度に立ち会った。
棺へそっと手を添え、眠るようなその顔を見つめる。
やがて身をかがめ、最後の口づけを交わした。
「……さようなら。」
その声を聞いた者はいなかった。
翌日――。
ライナーは、女王の遺言を実行した。
「アントンと同じ墓へ眠りたい。」
その最後の願いは、勝者であるライナーによってかなえられた。
神々の国は、その日静かに幕を閉じた。
人だけが、そこに残された。
コメント
1件
読了しました。この第45話、神々の寓話とライナーの物語が静かに重なる構成が美しかったです。ゼウスが父と同じ恐怖に蝕まれる循環と、プロメテウスの「神ではない」という最後の呟きが強く印象に残りました。王座が呪いのように描かれる哲学的な深みと、人間・ライナーの「金貨一枚、麦一袋」の現実的な苦労が対比になっていて、世界観に厚みを感じます。シャチトルとアントンの最期の場面も、描写が簡潔だからこそ余韻が深いですね。