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「凄い!冬じゃないのに、スケートリンクがある」
「ラスター帝国は、常夏の国とも呼ばれているからな。雪が降ることはまず無い。だからこそ、魔法で、スケートリンクや、雪を降らせている施設などがあるんだ。まあ、これが良い例だな」
「私、スケート初めてするかも」
次に連れてこられたのは、真っ白なスケートリンクだった。少し、帝都から外れた場所に出来た大きなスケートリンクには、老若男女が楽しそうにスケート靴を履いて滑っている。
確かに、ラスター帝国の日差しは熱いし、冬に雪が降らないとも聞いていたけれど、人工的に、スケートリンクを作れるんだ、と感心してしまった。維持するのに、どれだけの魔力が必要なのか。
「フッ」
「何よ、いきなり笑って」
「いや?このスケートリンクを維持する魔力について気になったんだろう」
「な、何でそれを」
顔を見れば分かる、と笑われてしまい、私は、カッと顔が赤くなった。さっきの話もあってか、想像はしやすかったんだろう。でも、バレるとは思っていなかったから、恥ずかしいというか。
「北の洞くつにいったことがあったらだろう」
「あ、あの大蛇がいたところね」
なんか、随分昔のことを言われているような気がして、私は、思い出すのに少しだけ時間がかかってしまった。
「あそこは冬になると雪が降るラスター帝国でも珍しい場所だ」
「常夏の国って嘘だったの!?」
まあ、落ち着け、とリースに言われてしまう。いや、常夏の国だと言っておきながら、雪が降るのかと、驚いてしまうのは、無理ないと思って欲しい。確かに、着たの洞くつは涼しいところだった記憶はある。あの時は、それどころじゃなかったから、そこまで詳しく覚えているか言われたら、あんまり覚えていないんだけど。
(じゃあ、常夏の国があったら、常冬の国とかあるのかなあ……)
また、知能指数低い事を考えてしまって私は首を横に振った。そして、話を戻すようにと、ごほんと、咳払いをする。
「それで、その北の洞くつには何があるの?」
「北の洞くつ……お前が、何処まで行ったかは聞いていないが、深く……まだ、大蛇がはびこる前だったらしいからな。そこで、|永遠《とわ》に溶けない氷を採取したそうだ。まあ、今も出来るらしいが、大蛇がはびこるようになってからは、全く採集にもいけていないらしいが」
「そう……じゃあ、奥深くまでいったら、寒い……氷があったって事かな」
中から、風が吹いていたような気もするし、もしかしたら、あったのかも知れないと、私は考えた。それにしても、永遠に溶けない氷とはまたファンタジーな。
何でもありだなあ、なんて思いつつ、リースを見れば、またフッという風に笑われてしまう。
「相変わらずの、好奇心だな」
「好奇心って……気になるもんじゃない?だって、スケートリンクが常夏の国にあるわけだよ?まあ、そうじゃなくても、魔法って本当に、何処までも深いものだし。私達が、解明していない力だって、あるかもだし」
「そうだな……それを、専門に研究している奴が、近くにいるだろう」
「近くにって」
「ブリリアント卿は、そうだっただろ?彼奴が、この帝国一、魔法については詳しい。彼奴……というよりかは、あの家系だが。まあ、侯爵なき今、彼が一番知っているだろうな」
と、何処かつまらなそうにいうリース。
ブライトが……という驚きはなかったが、それにしては、説明が下手すぎるというか、ブライトは、確かに教え方は上手いんだけど、そんな詳しく教えて貰ったような記憶が無かった。ふんわり、危険じゃないところだけ教えて貰っていたような気もした。
どちらかというと、アルベドに教えて貰ったような記憶がある。
(……違う、ブライトは、わざと教えてなかったんだ。危険だって知っているから、私が、変な風に魔法を使わないように)
聖女なのに、魔法について全然知らない。無知こそが、悪というのはあながち間違いじゃなくて、魔法のことを全然知らない私に、余計な知識ばかりつけさせても、ダメだと思ったんだろう。だから、あえて、言葉足らずに説明したと。リースがいうように、私の好奇心はたまに危険な方向に向かうから。
でも、アルベドは、私を信じていたから……教えた、のかも知れない。じゃなかったとしても、アルベドは、責任は自分が負うべきものだと考えているから、私が魔法で失敗したところで、私の責任だという風にも私に教えてくれていたのかも知れない。ようは、考え方の違いだ。
そもそも、ブライトとアルベドは光魔法、闇魔法で違うし、魔法に対する考え方だって違うはずなのだ。だからこそ、私に教えた量も違ったと。
「何か、また考え事か?」
「え、ああ、まあちょっと……魔法って凄いなって思うと同時に、色々、危険が付きまとうというか、解明されていないからといって、好奇心のまま突っ込んだら危ないなって思って」
「そうだな。無知は罪というからな。でも、お前は……」
「リース」
いや、何でもない。と、歯切れ悪そうに言うと、リースは、スケートリンクに目線を移した。そうだ、デート中だったと、全くデートらしくない雰囲気になってしまったため、私は、リースの手を引いた。
「スケートしたい。そのために連れてきてくれたんでしょう?」
「ああ、そうだが。大丈夫か?」
「うん、やってみたいの!」
私がそういえば、すぐに、顔を明るくして、「そうか」と嬉しそうにいってくれるリース。私が楽しめば、きっとリースも笑顔になってくれるだろうって言うのは分かった。私の笑顔で、彼が笑顔になるなら、これ以上嬉しいことはないと。
私達は、お金を払って、スケート靴を履き、リンクへと上がる。見た目以上につるつると滑って、縁の所を掴んでいないと、滑ってこけてしまいそうだった。
「子鹿みたいだな」
「馬鹿にしてるの!?」
「いや、可愛いと思って」
と、リースは、私の姿を見て、興味深そうにいう。いや、そんなにジロジロ見ないで欲しいんだけど、と講義したかったが、生憎声を出したら、こけそうで、私はたっているのがやっとだった。それに比べて、リースは、既に二本足で立っている……(いや、この言い方も言い方で、何か違う気がするんだけど)
「アンタ、やった事あるの?スケート」
「いや、これが初めてだ。一緒に、新しいことに挑戦してみるのも、楽しいと思ってな」
「なのに、何でもう立ってるのよ。可笑しいでしょ!?やったことないのに」
「スポースは嫌いじゃなかったからな」
「運動神経良すぎて……いや」
その、いや、は、何でも出来るリースの隣に立つのがいや、というのもあったけど、そんな彼の隣に立っていられないような気がして、自分にいや、というのもあった。
何で何でも出来るんだろうか。
勉強は私の方がちょーっと上だったけど、リースは、何でも出来たし。ううん、遥輝は、別に特定の部活には入っていなかったけど、スケットとか、私の大嫌いな体育祭で活躍するような男だったし。そして、顔面も良いから、女子からきゃーきゃー言われてて。私とは、全く無縁の世界に生きている人間だったのに。
そんな人間が、私の隣に、恋人として立っていて。
(本当に信じられないよね……)
誰が予想しただろうか。
私は、リースを、見て、彼が私の恋人だって言うことをもう一度自覚する。自覚すれば、また顔が赤くなってしまうんだけど、それは置いておいて。見つめ返した、ルビーの瞳が私を射貫いた。
「エトワール大丈夫か、立てそうか?」
「アンタが、リードしなさいよ。私の恋人でしょう」
「お前は、いつからそんな我儘になったんだ……」
「嫌い?」
「いや、嫌いじゃない。はっきり言ってくれる方が、嬉しい。お前のこと……お前の願いは全て叶えてあげたいからな」
「……っ」
ほら、というように差し出された手を、私は取って、リンクを滑る。途中で、怖くて、足をハの字に曲げてしまったが、恐れるな、とリースが私に声をかけてくれた。
「俺だけ見ろ。怖くない」
「……何それ。すっごく、キザ」
でも、それがにあってる。分かってる、だってずっと格好良かったもん。
と、私は、彼だけを見つめた。先ほどまで、下ばかり向いていたが、もう、大丈夫だというように、スッとリースの手を離す。すると、嘘みたいに自分の足で立つことが出来た。
「出来るだろ?」
「……アンタが、手を引いてくれたから。でも、まだ怖いから、手を繋いでいたい」
「……っ、エトワール」
まわりに人がいるなんて忘れて、彼はギュッと私を抱きしめた。優しい温かさが真正面から伝わってきて、私も、まわりのことなんて考えずに、目を閉じて、抱き返す。冷たい世界にポツンと取り残されたような気もするのに、どうしてこんなに温かいんだろうか。
(私、リースのこと好きだな……こんなに、好きだったっけ)
もう、恋人。もう恋人なんだけど、彼と触れ合うたび、本音でぶつかり合うたび、彼をより死って、彼への愛おしさが増していく。これが、愛で、恋心なんだなあ、なんて感じながら、私はもう一度、彼の手を取って冷たいスケートリンクを滑り出した。