テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
翌朝、ガルドがフィオナの部屋を訪ねると――そこには誰も、いなかった。
突然の光景に、ガルドの鼓動が速くなる。穏やかな日が、それだけで壊れていった。
「アリアさん! フィオナ様を見なかったか!?」
「え? あたしも起きたばかりで――」
しかしアリアは何かを察し、1階の全ての部屋を見てから、2階に向かう。
当然のように、どこにもフィオナは見えない。
「もしかして……攫われた?」
ガルドは先に起きており、アリアと同様、全ての部屋の状況を把握していた。
……ただ、フィオナの部屋を除いて。
そんな折、ザインとメルヴィナが外から戻ってきた。
「ただいま戻りました。今日も天気が良くて、散歩日和ですよ。
……あれ? どうかしました?」
「フィオナさんがいなくなったみたいなんだけど……外で見なかった?」
「うん? 裏の倉庫に向かったのは、早朝に見たぞ?」
「お前は何で、そんな時間に外にいたんだ?」
「いや……昨日の無理が祟ってな。
凄い筋肉痛だったから、軽く運動をしてたんだよ」
確かに重い塩を全力で運んだり、懸命にヌシのヌメヌメを取っていたからな……と、全員が納得する。
ガルドは急いで、裏の倉庫に向かった。
――そこには誰もいなかった。
ただ、倉庫の扉だけは開いたままになっていた。
「フィオナ様は、几帳面な方なんだ。
扉の締め忘れなど、今までにしたことは無い……」
「情報屋は昨日、塩を取りにきたよね? そのときは、ちゃんと閉めた?」
「もちろんだ。指差し確認を3回もやったから、確実だぞ!」
……とすると、フィオナはこの場所で攫われたことになるのか。
「ガルドさん、何か心当たりはありますか?」
「ぬぅ……。大聖堂では、主教と大司教が失脚したと聞く。
もしかしたら何か関係が……?」
「確かに主教殿は、フィオナさんの情報を持っていましたけど――
それは異端諮問局が入手しましたからね。オリバー様なら、その辺りは問題ないはず……」
「それなら、この前潰したヴェルガ教とかは?
司祭長はアリアが倒したけど、あそこも聖女を探してただろ」
「ふむ……。ヴェルガ教か……」
ザインの言葉に、ガルドは考え始めた。
しかし明らかに動揺しており、集中することができていない。
「ガルドさん、落ち着いて。飴玉あげますんで」
「お、おう? ……実際、今にも走り出したいくらいなんだが――
ヴェルガ教なら、オレも以前に調べたことがある。
……アリアさんたちが倒したのは、司祭長……レナルドの方か?」
「はい。本人は倒しちゃいましたけど、信者の生き残りなら、街に連行してもらいましたよ」
「……というと、今回の件はその残党か……?」
ガルドは宙を仰ぎ、考えを整理する。
アリアにもらった飴玉が、何となく助けてくれているような気がした。
「――もしかして、ヴェルガ教の……多元主義派か?」
初めて聞く名前に、全員の視線がガルドに集中する。
「それって、何ですか?」
「ああ。ヴェルガ教の主流派……原理主義派と意見が合わなかった奴らだ。
教理に対して、違う解釈をしてドロップアウトした……という連中だな」
「オルビス教でいう、異端……みたいな感じか?」
「んー、ちょっと違うかな。
ヴェルガ教の場合は、『ぼくのかんがえた最強の信仰』みたいな違いがある感じ?」
「……分かりやすいような、分かりにくいような」
「でも、急いでお助けしないと! ガルド、どこに行けば良いか、心当たりはある?」
メルヴィナも慌てている。
フィオナが聖女だということもあるが、既にひとりの人間として、好きになっていたのだろう。
「実際、今までは無視していい存在だったからな……。
……慌てても仕方が無い。ご無事を祈りながら、ひとつひとつ進めていこう……」
ガルドは拳に力を入れながら、そんな言葉を振り絞った。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
ラチム
878
57
153
193
時間に余裕は無い。
……そんな確認はするまでもなく、それぞれ全員に役割が与えられた。
ガルドは顔なじみの情報屋を訪れ、ヴェルガ教についての情報を探し始めた。
ザインは情報屋として近隣の街を訪ね、独自に情報を集め始めた。
アリアは持ち前の話術で、様々なところで聞き込みを始めた。
そしてメルヴィナは――
……ひとりで出来ることもなく、危ないながらも、丸太小屋で留守番をすることになった。
「……本当。私って役立たず……」
辺りの様子を探りながら、怪しい人がいないか、怪しいものがないか……念のため、確認していく。
既に何度も確認は終わっているが、それでも何かを……と、常に動きまわる。
そんな折、見知らぬ婦人が森の中をやってきた。
「こんにちは。フィオナさんかガルドさんは、いらっしゃる?」
「あ、こんにちは。
えっと……今はどちらも不在です。私は留守番を頼まれていて」
「あら、そうなの。川の水のことで、相談に来たんだけど」
「川の……? よろしければ、私が伺います」
メルヴィナは庭のテーブルに案内して、お茶を淹れて話をすることにした。
「この森から流れる川があるでしょう?
たまに、水が濁ってくるのよ。特に昨晩は、それが酷くて」
「滝つぼのヌシが、悪さをするんでしたよね。
昨晩というと――……ああ、昨日の夕方くらいに、ガルドさんがヌシを討伐したんです。
そのあと、濁ってしまったのでしょうか」
「あら! あらあら! それって本当?
それじゃ、これからは綺麗な水を安心して使えるのね!」
婦人は嬉しそうにはしゃいだ。
そもそも水が濁っていなくても、自分が使う水源に魔物がいる……というのは気持ちの良いものではない。
しばらく喜びの声を聞いていると、婦人はハッとした顔で言った。
「実はね、また問題が起きたんじゃないかって……冒険者ギルドで、討伐隊を派遣するって話になったの。
私の息子から聞いてねぇ。それで、ガルドさんにも一声掛けておかなきゃ、って。
ほら、ガルドさんって、森に人が入るのを嫌がるでしょ?」
ガルドのことは初耳だったが、メルヴィナはとりあえず頷いておいた。
それにしてもヌシを討伐した結果が、まさかこんな動きをもたらしていたとは……。
「その辺り、私は詳しくないので……。ガルドさんが戻ってきたら、お伝えしておきますね」
「お願いできる? それじゃ、私はこの辺で失礼するわね。美味しいお茶を、ありがとう」
「いえ。気を付けてお帰りください」
メルヴィナは婦人の姿が完全に消えるまで、静かに見送った。
そしてその姿が見えなくなると……力無く、椅子に身体を預けた。
……自分ももっと、動きたい。もっと、誰かの役に立ちたい。
ガルドが2つ目の異能を得たように、自分も新しい祝福を――
「……ううん。アリアさんは、そんなことはしない」
あの人は……自分の役に立つからと、仲間に異能を与えることは、きっとしない。
ガルドに2つ目の異能を与えたのは、1つ目の異能が使い物にならなかったから。身を滅ぼす異能だったから。
……メルヴィナはそう思った。
短い間に、アリアの性格のことだけは……分かったつもりだった。
「――はぁ。私、もっとがんばらないと」
腐っている暇はない。
いろいろなものを捨ててきた自分は、他のものをたくさん拾っていかなければいけない。
とりあえず、メルヴィナは自分にできそうなことから、始めることにした。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
――夜。
丸太小屋の食卓で、ザインとガルドがスープを飲んでいる。
……それはメルヴィナが作ったものだった。
「……うん。これは……うん」
「お嬢さん。なかなか……個性的な味ですね」
「不味いなら不味いって、言ってください!!」
メルヴィナの言葉のあと、しばしの沈黙が流れる。
いつもであれば、この辺りでアリアの軽口が入ってくるのだが……彼女はまだ、戻っていなかった。
「それにしても、アリアは遅いなぁ……」
「もしかして、街で何かあったのか? 暴漢に襲われたり……」
「旦那を負かすくらいには、強いヤツなんだけどなぁ?」
確かに戦闘においては、アリアが一番強い。
とはいえ、見た目は華奢な少女なのだ。心配しない方がおかしい……というのは、全員が一応分かっていた。
「老婆心ながら、もう少し……気を遣った方が良いぞ?」
「……ああ。……参考にするわ」
再び沈黙が流れる。
フィオナがいなくなり、そもそもが暗い雰囲気……というのもあるが、やはり何かが足りない。
メルヴィナは、アリアがいつも座っていた椅子を眺めながら――それが心の拠り所なんだな、と思った。
戦闘の強さとは別に、みんなを支えるという強さがある。
自分はきっと、そういうものに憧れているのかもしれない……。
――ガタンっ
不意に、玄関から物音が聞こえた。
全員が走って玄関に向かうと、そこにいたのは――
……アリアと、レイラだった。
「ただいまぁ……。あーもう、疲れたぁ~」
「ここはどこですかぁ~?」
アリアはレイラを背負っており、レイラはぐったりと、溶けるように背負われている。
一同が呆然としている中、アリアはレイラを応接室のソファに寝かしつけてから、食卓にやって来た。
「おう、お帰り……」
「んあ~。冒険者ギルドで、レイラに出くわしてさぁ……」
「レイラ、というのは?」
「あはは……。アリアさんを、唯一振り回せる人ですよ……」
ザインとメルヴィナは、ガルドにレイラのことを教えていった。
監獄のある街で出会ったこと、大聖堂にまで押しかけてきたこと――
また、『直感の才能』というものを持っており、その名の通り、直感力が凄まじいこと。
「レイラは今、あちこちの冒険者ギルドで活動しているんだって。
それで、今一番行くべきところ~……って選んだのが、この街みたいで」
「ほう?」
「それで、何かトラブルに巻き込まれていたんだけど――
何故かあたしが助ける流れになって、そのまま連れてきた……ってわけ」
「はぁ……。相変わらず、お前と縁があるなぁ」
「レイラさんは、アレですよね。
アリアさんを求めて、あちこち行っているというか……」
「――そう、それ!」
アリアは突然しゃっきりとして、全員に言い放った。
「つまり、フィオナさんの行き先がある程度でも絞れれば……。
あとはレイラの力で、何とかならないかな?」
「おお、それは……いけるのか? どうだ?」
「いや……。そうは言っても、ただの勘……ということだろう?」
アリアとザインの言葉に、ガルドは疑いを向ける。
そんなガルドを見て、メルヴィナは軽く迫る。
「でも、完全に適当よりは良いでしょう?
レイラさんの才能は、アリアさんの祝福で得たものだし」
「あはは……。その才能のおかげで、あたしは追い掛けられてるんだけどねぇ……。
さて、それじゃ情報屋とガルドさんの結果を聞きましょうか。
――の前に、メルちゃんはどうだった?」
「はい。留守番中に、近くに住むご婦人が訪ねていらっしゃいまして。
……その話は、あとでガルドに伝えるね」
「分かりました、お嬢さん」
「あ、そうだ。あとは時間を見つけて、スープを作ってみたんです。
アリアさんも、ぜひ飲んでください」
メルヴィナがスープを温めて戻ってくると、3人は入手した情報の話をしていた。
いつか自分も、あの輪に入ることができれば……そう思いながら、話の邪魔にならないようにカップを置く。
「あ、メルちゃん。ありがと~♪」
話をしている最中にも、自分を労ってくれる優しい笑顔。
ああ。やっぱり私には、こういう人が――
「――まっず!!」
その後、アリアはザインとガルドに絞られた。
メルヴィナは涙目になっていたが、アリアが料理を教える……という条件で和解した。
ただ、内心……メルヴィナは、こういうのも悪くない――とも、思ってしまうのだった。