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~その日の夜~
俺はミズキにこれまでのことを話した。あのジャケットを着てからおかしな夢を見ていること、夢で出てきた外国人達が殺されたこと、今日のこと、全部話した。
俺の話をひとしきり聞いたミズキは、タバコに火をつけながら言った。
「まぁ、俺は古着が好きだからたくさん集めているけど、これまでそんなことは無かったよ。タカトの見ている夢が想像ではなくて呪いによるものだったら、相当運が悪いってことだね。」
俺はこう返す。
「そりゃこんなこと普通はないだろうさ。だからミズキに相談してるんだよ。俺はどうすればいいと思う?」
タバコを一吸いして、笑いながらミズキが返す。
「もうあのジャケットを手放せばいいんじゃね?呪いの根源を無くせばそんな夢見なくなるかもよ。」
確かにそうかもしれない。でも、ヘンリーはジャケットをルイスにあげたにも関わらず、ロイに撃たれて死んでしまった。
あのジャケットを着てしまったが最期、呪いから逃れることはできないんじゃないだろうか。
俺が考えながらミズキを見ると、ミズキが赤い目をして涙を流している事に気づいた。
俺はこれまで見てきた夢を思い返す。ヘンリーとルイスを撃ったロイは笑いながら泣いていた。まるで何かに取り憑かれたかのように。
そしてルイスが言っていた首をつった泣き虫の青年。彼も泣きながら笑って首を。まさか、俺はこれからミズキに殺される?そう考えてしまった俺は立ち上がり、取り乱しながらミズキに叫んだ。
「お前、俺のこと殺すつもりだろ!やっぱり俺とマナミのこと良く思ってなかったんだな!?」
俺の言葉に驚きながらミズキが返す。
「な、どういうことだよ?俺がタカトを殺すだって?そんなことするわけないだろ!マナミのこととか今関係ないし、お前どうしたんだよ。」
「夢の中でヘンリー達を撃った奴も今のミズキみたいに笑いながら泣いていたんだよ!お前も呪われたんじゃないのか!?」
俺の言葉に対し、ミズキはこう返す。
「今俺が泣いているのはタバコの煙が目に入ったから!笑っているのは正直お前の話がくだらないって思ったからで…それは悪かったよ。タカトがそこまで思い詰めてるなんて思わなかったから。」
ミズキの言葉を聞き、俺は座って落ちつきを取り戻した。ミズキが続ける。
「俺がタカトとマナミのこと良く思ってないってどういう意味?お前、他にもなんかあったんじゃないのか?」
俺は昨日マナミに言われたことを話した。今の俺とマナミを見て、ミズキはどう思っているのかということ。俺の話を聞き、ミズキはこう言った。
「そっか。確かに前みたいな3人の関係に戻りたいと思うこともあるけどな。でも俺はタカトがマナミが好きだって俺に言ってくれた日から、お前ら2人を応援するって決めたんだ。俺はタカトもマナミも親友としてずっと好きだから。この気持ちに嘘は無いよ。」
これがミズキの本音。俺はミズキに頭を下げ、涙を浮かべながら言った。
「ミズキ、ひどいことを言ってごめん。お前を疑うなんてな。俺たちはずっと親友だよな。」
ミズキは「当たり前のことを言うなよ」と、笑いながら返した。
家へと帰り、俺は夕食を食べながらマナミにミズキの本音を伝えた。マナミは俺の話を聞いてこう言った。
「それがミズキの気持ちなんだね。良かった。私ももっと自分の気持ちに正直にならなくちゃ。」
今日は寝ないでおこう。寝なければあの夢を見ないで済むはずだから。そして明日、あのジャケットを燃やしてしまおう。泣き虫の青年の魂が成仏できるように祈りを込めながら燃やすんだ。そうすればきっともう、あの夢を見ないで済むはず。
しかし、夕食を食べていた俺は、何だか急に瞼が重くなった。そして気づけば俺はテーブルにもたれ掛かりつつ寝てしまっていた。
~~~
気づけば俺はルイスの見る景色を見ていた。昨日の夢の続きである。銃口を向けられているルイスは、ロイに対してこう言った。
「ローズはどこにいる?!何も自分が愛している女まで手にかけることはないだろ!」
ロイが返す。
「あぁ、ヘンリーとあんたをやれればよかったさ。だがヘンリーを撃った俺を見て、ローズがこう言ったんだ。「地獄に堕ちろ」って。俺の気持ちも知らずに!ついカッとなってね。ローズを撃った。」
奥の部屋を見るとドアが開いており、そこから血溜まりが見える。絶望の表情を見せるルイスにロイに対し、引き金を弾きながらこう言った。
「次はあんただよ。ルイス。」
“パァーン”と、サイレントがついているものの部屋には銃声が響いた。
ルイスは手に持っていたバットを離しながら後ろへと倒れる。そのバットをロイは拾い上げ、ルイスの前へ立った。
急所は外れたのか、ルイスはまだ意識がある。ルイスはロイに語りかける。
「なぜだ。私は君の上司だから分かる。君はこんなことをする人間ではないはずだ。頼むからもうやめてくれ。」
ロイは泣きながら、笑顔をみせてこう返した。
「あんたは苦しませて殺してやる。このバットで頭をバラバラにしてやるよ。」
ロイの様子は、まるで狂気を誰かに操られているように見える。ルイスは身体を動かして逃げようとするものの、身体は動かない。
ロイがルイスの頭に振り落とそうと、バットを振り上げる様子が見える。そして振り落とされたバットはルイスの目前に迫ってきた。
酷く頭が痛い。呼吸も苦しい。早く夢から醒めてくれ。気づくと目の前には、椅子に座って俺を見ているマナミの姿が見えた。
夢じゃない。これは夢じゃない。現実だ。今俺は現実で苦しんでいる。口から血の味がする。俺は血を吐いていた。
ボヤけた視界に映るマナミは、苦しみもがく俺を見てこう言う。
「おかしいなぁ。苦しませずに殺せる毒薬のはずだったんだけど。まぁ、殺せたら何でもいいか。」
マナミが今日の夕食に毒薬を。何で?どうして?言葉すら発せない俺に、マナミはこう言う。
「聞こえているか分からないけど、一応教えてあげるね。これからタカトが死ぬのは、私がミズキと一緒になるためだよ。」
訳が分からない。マナミは俺のことが好きなはずだろ!マナミは続ける。
「私ね、本当は昔からずっとミズキのことが好きだったんだ。でもミズキは鈍感だから私の気持ちに気づいてくれない。それどころかタカトと付き合えって言ってきて。別に高人のこと嫌いじゃないし、ミズキのためにもとりあえず我慢しようと思ってたけど、やっぱり無理だよ。だってタカトじゃなくって、ミズキのことが好きなんだもん。」
現実だと思いたくない。そうだ!これはまだ夢の続きだろ?そうに違いない。そうであってくれ。そう考える俺に、マナミはこう言った。
「タカトがいなくなれば私はミズキの所へ行けるようになる。ミズキは優しいから、きっとタカトを失った私のことを見てくれる。だから、ごめんねタカト。あなたはいなくなるの。私達の前から。」
マナミのこの言葉を聞いたのを最後に、視界が赤く染まっていく。
ミズキと一緒になるためだとしても、マナミがこんなことをするはずがない。きっとあのジャケットの怨霊に操られてるんだ。
そうなんだろ?きっとそうだ。
崩れゆく意識の中、俺が最後に見たマナミの顔は、赤い目をして泣きながら、笑っていた。
尊人(タカト)を毒殺した愛美(マナミ)は、遺体を山へ埋めようと準備をしている。物を整理していた愛美の目に止まったのは、例のジャケットであった。
愛美は独り言をこぼす。
「せっかくだし、売っちゃおう。近くにリサイクルショップがあったはず。」
こうしてジャケットはリサイクルショップへと渡り、店頭へと並んだ。
~数日後~
とある仕事終わりのサラリーマンがリサイクルショップへと足を運んでいた。
彼は古着のコーナーへと行き、服をかき分けながら買う服を決めようとしていた。するとピタッとかき分ける手が止まる。彼の目には茶色いジャケットが目に止まった。
彼はそのジャケットをハンガーから外し、試着もせずにレジへと向かった。
彼は家へと帰り、玄関を開けると勢いよく6歳の娘が飛び出してきてきた。
「おかえりパパ!今日はパパの大好きなハンバーグだって!」
愛する娘の言葉に父は笑顔で、「ただいま。パパ嬉しいな!」と返し、妻の待つリビングへと入った。
帰ってきた夫がビニール袋を持っているのを見た妻は、「何を買ってきたの?」と夫に問う。夫はビニール袋からジャケットを取り出し、妻と娘の前で着て見せた。
「どう?帰りがけリサイクルショップに寄って買ってみたんだが、似合ってるかな?」
父からのの問いかけに対して娘は「パパかっこいい!」と返し、妻も「似合ってると思うよ!」と返した。
夕食を食べ終わり、夫は妻に部屋で余っている仕事を終わらしてくると伝え、仕事部屋へと入った。
妻がつけたテレビではニュースをやっており、キャスターが事件を読み上げている。
“今日の午前11時、同棲相手の殺害及び、死体遺棄の容疑で塚本愛美容疑者24歳が逮捕されました。塚本容疑者には、行方不明となっていた中村尊人さん25歳の殺害の容疑がかけられており…
妻はテレビで報じられているニュースには目もくれず、スマートフォンを見ている。そこへ娘が近づいてきて、こう言った。
「ママ。なんでスマートフォン見ながら泣いているの?嫌なことあった?」
彼女は赤い目をして、泣きながらスマートフォンを見ていた。娘に心配されていることに気づいた彼女は、娘にこう返す。
「大丈夫だよ。何でもないから。さぁ、良い子はもう寝る時間だよ!」
彼女は娘を連れて、ベッドへと向かった。
机に置かれたスマートフォンは、とあるホームページを映し出している。
そのページの先頭には、[殺人衝動の抑え方]と書かれていた。
短編集「夢」 終わり