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恵菜は思う。
純と一緒に外食をする時、いつも黙々と食事をする事を。
だけど、言葉を交わさず食事しているからといって、気まずいと感じているわけではない。
多分、美味しいご飯を食べると、恵菜も純も無口になってしまうのかも……。
一枚のプレートの上に描かれている、盛り付けがカラフルで、目にも美味しい料理は、味もちょっぴりスパイシーで、恵菜の心と食欲を豊かにさせている。
チキンの横に添えられている、サフランライスの鮮やかな黄色は、元気を与えてくれるビタミンカラー。
一年前、まだ早瀬との離婚の話し合いが膠着状態だった頃、美味しそうな料理を見ても、食欲をそそるどころか、吐き気と食欲不振に悩まされていた。
(ご飯を美味しく食べられる事。当たり前だった事が当たり前じゃなくなった時期があったからこそ、こうして食事をできるのが、すごくありがたいって思えるのかも……)
そんな事を考えつつ、純にチラッと視線を向けると、ビーフシチューのライスプレートを、美味しそうにスプーンで口に運んでいる。
「俺と恵菜がご飯を食べてる時って、無言になっちゃってるよな」
ひと足先に完食した純が、ドリンクを飲んだ後、徐に口を開いた。
恵菜は、あと少しで食べ終わりそうなのか、残りのサフランライスと、グリルチキンを黙々と食べている。
「あ、もしかして俺…………食事の邪魔をしちゃってるか?」
彼はおずおずと、恵菜の様子を伺う。
「…………ごめんなさい。全然邪魔ではないですよ。私も思ってたんです。純さんと一緒にご飯を食べてる時って、黙ったまま食べてるなって」
恵菜は、一度スプーンとフォークを置いた後、純の質問に答えた。
「それにしても、ここのカフェのライスプレート、ボリュームがあって美味しいですね! もうちょっとで食べ終わりそうなので、待っててもらえますか?」
「もちろん。焦らずにゆっくり食べていいよ」
まだ皿の上には、ひと口分のチキンとサフランライスが残っている。
恵菜は、純の柔和な眼差しに包まれながら、食事を終えた。