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食事を済ませた二人は、飲み物を片手に、目の前に広がる、みなとみらいの景色を楽しんでいる。
穏やかな海風が二人を撫でるように吹き抜けていき、微かに潮の香りが掠めていく。
「恵菜ってさ……」
「はい」
純が、躊躇いながら彼女に声を掛けた。
「結婚式は挙げずに、婚姻届を提出しただけって言ってたよな?」
「ああ…………まぁ……そうですね……」
いきなり結婚していた時の話題を振られた恵菜は、戸惑い気味に苦笑する。
「結婚指輪も買わなかったのか?」
「指輪は一応買いました。けど、私が太ってから、指輪が入らなくなってしまって…………。以来、指輪は一度もしてないですね……」
小型船が行き交う横浜港に視線を向けながら、恵菜は、過去を振り返りながら答えた。
「そうなんだ……」
純は、手を後頭部にやりながら、髪を撫で付けている。
(それにしても純さん、何で結婚指輪の事なんか聞いてきたのかな……?)
彼から、指輪の話を聞かれて、恵菜はきょとんとしてしまった。
「いや、あのさ……」
純が顔を仄かに赤く染めながら、指先でこめかみを軽く掻いている。
「いい歳した男が、こんな事を言うのも、何か照れるんだけどさ……」
言いあぐねている彼を、彼女は見つめながら言葉を待っていると、純が小さく口を開いた。
「せっかくだから…………恵菜と……お揃いのアクセサリーとか…………身に着けたいなぁ、なんて思ったんだけど…………どう?」
純が、はにかみながら口ごもり、恵菜に提案する。
彼が恋人とお揃いの物を欲しい、というのが、彼女には意外に感じた。
過去に多くの女性と遊んできた、と話を聞いていたせいか、彼は、恋人と同じ物を持つのは嫌がると思っていたから。
呆気に取られた恵菜の表情に、彼は彼女の思っている事に気付いたのだろう。
羞恥心を覗かせつつ、純は言葉を続けた。