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晴友Side



戦争のような1日にも、やっと終わりが見えてきた。

「はい、これにて全商品完売。みんな、お疲れ様」

『おつかれしたー!!』

暁兄の一声に拓弥、美南、俺が思わず拍手して返した。

夕方5時。

フェストはまだまだ活気に溢れていたが、俺たちの店は全商品が売り切れとなり、早々閉店となった。

「うっわ、暁兄焼けたなー!でもこれで見かけもチャラくなって、タラシに磨きがかかったな!」

「失礼だなぁー、そりゃあ、たーくさん女の子から連絡先もらっちゃったけど。…って拓弥くんも真っ黒だよ」

「うわーぁ日焼け止めぬっといたのに!安物のよこしたな!おまえは真っ白じゃねぇかっ、美南!」

「うっさいわね!それなら自分で買いなさいよっ!って、晴友よりはましでしょ…!」

ああ?

「あはは、ほんとだ、すっげ真っ黒!ますますガラが悪ぃ!」

「そんなんじゃ日菜ちゃんに嫌われちゃうぞ」

「ま、いいんじゃない?日菜ちゃんにはやっぱり白馬に乗った王子さまみたいな男の子がお似合いだから」

は、はぁ…?日菜、色黒嫌いか…。

いや、あいつは見かけで判断するやつじゃ…。

いや…むしろ反応を気にするなら、凌輔さんからが…。

と、忙しさにかまけて忘れていたことを思い出して、頭を抱えそうになった。

日菜をめぐって、あのシスコン兄貴との対決が待っていた。

俺の恋路を邪魔する存在。

凌輔さんとカンナ。

けど、カンナについては、落とし前をつけたつもりだ。

でも、この前は驚いたけどな…。

いきなりキスされるなんて…。





キスされたとき、一瞬何が起こったのかわからず、俺はカンナの腰に手を当てた。

首に腕が回り、甘たるい香水が鼻を掠めたところで、俺はとっさにカンナを突き離した。

「やめろ…っ!」

「…だってっ…!わたしずっと後悔していたの!晴友を傷つけたって…!晴友がどんな思いで作ってくれたケーキか考えもしないで拒絶して…」

「…あれは…」

たしかに苦い思い出だった。

環奈を励ますつもりで作ったケーキが、逆に苦しませるものになってしまったのだから。

「あれはむしろ俺の方が無神経だったんだ。それを、俺が無神経に逆撫でするようなことをしたから。ああいうことを言ったのは、それだけおまえが必死で頑張っていた、ってことだろ?後悔なんて、する必要ない」

「するよ!!…そういう…問題じゃないんだよ…。私の後悔は…そういうことじゃない…」

「…環奈…」

涙をこぼした環奈に目を見張った。

「だって晴友のこと大好きだったのに…誰よりも大切だったのに…。それは今も変わらない…。私は、晴友のことがずっと、ずっと好き…」

…環奈の告白は衝撃だった。

けど、単純に、想いを寄せられていたことに驚いたわけじゃなかった。

俺は泣きじゃくる環奈の頭を撫でた。

「ごめん環奈…」

驚いたのは、自分で思っていた以上に、環奈の告白に動揺しなかった、ってことだ。

環奈に対してはたしかに特別な想いを持っていた。

好きだったのかもしれない。

けど今の俺には、環奈以上に特別な気持ちを抱くやつがいる。

はっきりとそう断言できるほどに、好きで好きで、たまらない女がいる。

カンナは顔をゆがませた。

もしかして、俺の気持ちを最初からわかっていたのだろうか。

「俺もおまえのことは特別に思っていたよ。おまえは大切な幼馴染だった。いつも一緒で何でも話できて、大きな夢も持っていて、戦友みたいな存在だった」

「…」

「最初は『環奈が芸能人になんて』、『どうせすぐ戻ってくる』って高をくくっていた。でも、おまえはあっという間に登って、夢に向かって行った。気づいたときにはすっかり遠い存在になっていて、焦った。…そんな時、日菜が現れたんだ」

「…」

「毎日美味しそうに俺のケーキを食べてくれるあいつに励まされた。あいつ、甘い物すげー食うんだぜ。まるで四次元胃袋。みんなから『ファイターちゃん』ってあだ名までつけられてさ。似合わねぇだろ、あんな小さいのに」

フッ、と思わず笑いを噛み殺した。

「クサクサしていた俺を、あいつが支えてくれた。あいつがいたから、今の俺がいるんだ。俺は日菜が好きだ。だからごめん。おまえの気持ちには応えられない」

環奈はただ黙って泣いていた。

見るのが辛かった。

でも後悔はしなかった。

むしろ…すっきりしたんだ。

自分の気持ちを口にすることで、すっきりと確信できたんだ。

決めた。俺は日菜に告白する。

それがカンナへのせめてもの誠意。カンナに伝えてもらっておいて、俺がモタモタしているわけにはいかない。

アイメイクがぐしゃぐしゃになるくらい泣き腫らしているのに、声は必死に殺しているところがあいつらしかった。

「そんなの、認めないから…!」

カンナは鼻の詰まった声で、ほとんどにらむように潤んだ目を俺に向けた。

「晴友がなんと言おうが、私はあんな子ちょっと可愛いだけでオドオドしているだけじゃない」

「それがそうでもないんだよな」と首を振って、俺は微笑んだ。

「ごめん、カンナ。何があっても俺の気持ちは変わらない」

「……」

「おまえは今憧れていた舞台に立っているんだ。おまえはこのままどんどん上に行って、俺ら一般人が簡単に近づけないようなすげー芸能人になってくれよ。

おまえなら、きっとできるよ」

カンナは何も言わず、踵を返して走った。

俺はその背中を最後まで見送らず、店に戻ったのだった。

イジワル先輩さま、ご注文は甘い恋で

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