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確かに、街慣れしていない兄のこと、人に乞われるままに施して、金子はなくなり、そこに漬け込まれて馬を売り……散々な事になり兼ねない。
姑に当たる、名士の黄承彦《こう しょうげん》の名を出せば、大抵の事は収まるであろうし、孔明の事を気に入っている黄承彦も、前に出て来るはずだ。
月英は、気を付けるべき事を、具体的に、言い付けているのだろうが、均は、自分よりも、兄の事を掴んでいる所は、やはり、夫婦というものなのかと思う。
「あー、均様、私、どうも眠とうございます。このまま、床につかせて頂きますので、均さまは、遠慮なく畑仕事へどうぞ」
言って、大欠伸をしながら、月英は、家へ入って行った。
均は、思う。あれぐらいの腹の座り具合を持ち合わせないと、兄の才を引き出せないのだろうと──。
そして、襄陽《じょうよう》の街、司馬徽《しばき》の屋敷前では、孔明が、立ち往生していた。
どうしたことか、先生と、呼ぶべき師の屋敷の門は、閉ざされており、訪れる門下生も、それを見て、踵を返していた。
──成る程、先生はお留守ということか。
と、孔明も、そこまではわかるのだが、その先が、わからない。
金子もあるので、姑の屋敷には、立ち寄れず、かといって、いつものように、門下生達と、時を忘れて討論する訳にもいかない。当然、馬は、必守しなければならないが、そもそも、手持ちがあるのだから、売る必要もないだろう。
やはり、家へ帰るのが最善、なのだろうけれど、さて、今から戻れば、黄夫人に、サボったと思われまいか?などなど、閉じられた門の前で、孔明は、あれこれ考えているのだった。
「おい、諸葛亮!何をつっ立っているんだい?」
「やあ、徐庶《じょしょ》じゃないか」
何故か気があって、心安くしている、同じ門下生の徐庶が、声をかけてきた。
「お前さんこそ、何をしてるんだ?見ての通り、今日は、先生は、お留守のようだぞ?」
「うん、それは、わかる」
「ははあん、どう、暇潰しをしようかと、悩んでいるわけだな?」
徐庶は、何も言うなとばかりに、うんうんと、幾度か頷いた。