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ジーナの王都到着は、伝書鳩が国王に伝えていた。
王宮の正面門が開くと、豪華な馬車がジーナを出迎えた。
ジーナを乗せた馬車は、庭園をゆっくりと進んだ。
ジェイクは、馬車の右側を歩いている。
王宮の玄関前に馬車が止まった。
ズラリと並んだ20名の侍従が、一斉に頭を下げた。
「お持ち申し上げておりました」
ジーナは、ジェイクに手を取られて馬車から下りた。
「俺はここまでだ。中に入れない」
「一緒に行ってほしい」
委縮しないと決めたが、やっぱり不安だ。
「私を守るように言われてるんでしょ?」
フッと笑ったジェイクは、侍従のリーダーに告げた。
「国王陛下の御命令により、護衛を継続する」
ジーナとジェイクは王宮に入った。
長い回廊を抜けて『控えの間』に案内された。
『控えの間』は、国王に拝謁する者の〈待合室〉だ。
絵画や彫刻など、豪華な美術品が飾られている。
侍従がジーナに声を掛けた。
「お召替えの御用意ができました。お移り下さいませ」
「え? 服を着替えるの?」
ジーナの安い普段着は、落馬したとき汚れて破れた。
父とはいえ、国王に拝謁する服装ではない。
ジーナを見送るジェイクに、侍従が声を掛けた。
「貴方もですよ」
ジーナは生れて初めてドレスを着た。靴も絹製だ。
コルセットは苦しいし、ネックレスは重い。
姿見の前に立ったが、鏡はチラッと見ただけだ。
似合ってない に決まってる。
(あー、疲れた。歩きにくいし)
侍従と一緒に『控えの間』に戻ると……、
「えっ!?」
ジェイクが正装した姿で立っていた。
白いジャケットとベストとパンツには、金色の刺繍が入っている。
白いブーツも新品だか、剣は背負ったままだ。
(わぁ、カッコいい……)とジーナは思ったが、
それ以上に、ジェイクは高揚していた。
「あ……」
青いドレスを着たジーナは、別人のようだった。
というより、
(これが本当の姿だろう)
(陛下そっくりだ)
栗色の髪と茶色の瞳。優しく微笑む口元。
(俺の命を救ってくれた、陛下にそっくりだ)
言葉が出ないジェイクに、ジーナが訊ねた。
「私は、似合ってないよね?」
「いや……、 似合ってる」
「え? ありがとう。ジェイクもカッコイイよ」
ジーナは (もっと話したい) と思ったが、侍従の声が聞こえた。
「国王陛下が『謁見の間』 に御出ましにございます」
ついに国王と対面する。
だが、侍従の声には[続き]があった。
「サーシャ王妃陛下、ネリー王女殿下、御出ましにございます」
(すごい……)
ジーナが息を吞むほど、『謁見の間』は壮麗だった。
天井に豪華なシャンデリアが輝き、窓は緻密なステンドグラス。
壁は鏡張りで、床は大理石だ。
謁見に来た者に、国王の威厳と富を知らしめている。
特に目立つのが、ズラリと並んだ歴代国王の石像だ。
17名の王と女王の像は、等身大より大きく、すべてポーズが似ている。
両手を広げ、大きく口を開け、瞳は上を見ている。
何かに向かって歌っているようだ。
その姿は凛々しく、君主の威厳と品格を感じる。
『謁見の間』には、国王の廷臣や側近など、多くの家来がいた。
全員がジーナに興味を持っている。
「似ている」
「間違いなさそうだ」
コソコソと声が聞こえてくる。
真正面の玉座に、国王が座っている。
年齢は42歳。髪は栗色で、瞳は茶色。
上品な口元に笑みを浮かべている。
王の左に、ネリー王女が座っている。
年齢は16歳。髪は金色で、瞳は青い。
あどけない笑顔でジーナを見ている。
王の右には、サーシャ王妃が座っている。
年齢は38歳。髪は金色で、瞳は青い。
見惚れるほど優美な貴婦人だ。
玉座から一段下がった場所にも、男が座っていた。
年齢は40歳。髪は茶色で、瞳は灰色。
黄金の装飾品が目立つ、豪華な服を着ている。
男は鋭い眼差しでジーナを観察している。
「もっと近くへ」
国王の招きで、ジーナは玉座に近付いた。
「よく来てくれた」
国王は立ち上がったが、すぐに蹌踉けた。
「お父様!」
「陛下」
ネリーとサーシャ―が、国王を椅子に座らせた。
重病というのは本当だった。
国王は、目前まで来たジーナを見つめた。
「申し訳ない。心から詫びたい」
(え!?)
ジーナは驚いた。
お父さんに謝らせる!!
と思ってここまで来たが、国王が先に謝罪した。
「私はローザを守れなかった」
「父の言葉を信じて、亡くなったと思い込んでいた」
「18年間、本当にすまなかった」
国王は、ジーナと母に謝っている。
だがジーナが求めるのは『それ』ではない。
「私はいいです。幸せでしたから。でも、父に謝って下さい」
「ローザを匿ってくれた、密偵隊の者か」
「父のベイルです。つい最近、亡くなりました」
「申し訳ない」
国王が頭を下げた。
「ベイルには心から感謝している。死後褒章を授与し、騎士の称号を与える」
ジーナは思いを巡らせた。
(お父さんに感謝して、謝罪の気持ちがあることは判ったし)
(ネリー王女から敵意を感じないし)
(安全みたいだから、村に帰ろう)
「それでは失礼します」
ジーナは一礼して、立ち去ろうとした。
すると国王が、意外なことを言った。
「一つ頼みがある」
「なんですか?」
「歌を歌ってほしい」
「歌???」
ジーナは『謁見の間』に入った瞬間から、玉座の側にあるピアノを見ていた。
(なんて立派なピアノ)
(どんな音がするんだろう?)
歌を歌う、ということは、あのピアノで伴奏するはずだ。
ジーナは(音を聴いてみたい!)と思った。
「何を歌いましょう?」
「『精霊の歌』が聞きたい」
『精霊の歌』は、エコーリア王国に古くから伝わる童謡だ。
♪北の山に棲む精霊は
♪国を守ってくれる
♪でも歌を捧げなければ
♪怒って民を苦しめる
♪山に悪さをしたら
♪怒って民を苦しめる
♪精霊に聖なる歌を捧げよう
♪捧げる者こそ わが大王
この歌詞通り、エコーリア王国の国王は、一年に2回、北の山脈に赴いて精霊に歌を捧げる。
ズラリと並んだ石像は、歴代の国王が精霊に歌を捧げる姿だ。
「はい。では歌います」
王宮付き楽団のピアニストが、ピアノを演奏した。
(素晴らしい音!!)
ピアノも演奏者も超一流だ。
ジーナは、心のままに歌った。
残念なのは、ドレスのコルセットが苦しくて、いつもより音量が出ないことだ。
だが……、
国王は涙を流してジーナの歌に聴き入った。
(声はローザにそっくりだ……。歌は、ローザより上手い)
『謁見の間』にいる全員が、ジーナの歌声に心を奪われた。
感動して胸を押さえる者が多いなか、ネリーは耳を押さえた。
(聴きたくない。認めない)
歌が終わると、『謁見の間』は静まり返った。
(え? え?)
ジーナは焦った。こんなことは初めてだ。
ピアニストが 〈ポロン〉 と音を奏でた。
その音を切っ掛けに、盛大な拍手が起こった。
ジーナは慌てて一礼した。
「ジーナ」
国王がフラフラと立ち上がった。
ネリーとサーシャが座らせようとするが、手で制する。
「王宮に住んでほしい」
「え?」
「音楽大学には王宮から通えばよい。ベイルの望みであった、と聞いている」
ベイルはジーナを進学させるために、出生の秘密を国王に伝えた。
ジーナの音楽大学入学は、ベイルの願いだった。
「二人の父のために、ここで暮らしてほしい」
(そうか……。私には父親が2人いるんだ)
進学させたい、お父さんの希望。
一緒に暮らしたい、実父の希望。
両方を叶えるには、この王宮に住めばいい。
それに……、
音楽大学進学は、ジーナ自身の大きな夢だった。
「わかりました。お世話になります」
このときジーナは[命を狙われること]を軽く考えていた。
王宮で襲われるなど、想像できない。
ネリー王女が敵だなんて、ジェイクの勘違いだと思った。
(私はココから大学に通うだけ)
(卒業したら、グリーンハリス村立高校の音楽の先生になろう)
国王は無理をしながらも、堂々と胸を張った。
「皆の者!!」
重厚な声が『謁見の間』に響き渡る。
「我が娘ジーナを、第1王女として王宮に迎える。国内外に周知徹底せよ!!」
廷臣、側近、侍従、すべての家来が歓声を上げて拍手をした。
サーシャ王妃も笑顔で拍手している
鳴りやまない拍手の中、ネリーは美しい顔を歪めた。
国王は、側近に付き添われて退席した。
ネリーとサーシャも後を追った。
ジーナの周辺に、女性侍従が数人集まった。
「ジーナ王女殿下。本日より私たちがお仕え致します」
侍従長のリンダは26歳。髪は赤毛で瞳は緑色だ。
王宮の作法や儀式に詳しく、王族や貴族の情報にも精通している。
「どのようなことでも御用命下さいませ」
答えに困るジーナの前に、男が現れた。
「初めまして、ジーナ王女」
玉座から一段下がった場所に座っていた男だ。
リンダがジーナに伝えた。
「陛下の御令弟、ダレス公爵様です」
ジーナを鋭く見ていたダレスだが、いまは笑顔だ。
「陛下の弟。貴女の叔父ですよ」
「あ……、初めまして。ジーナです」
「明日、私の城で晩餐会があります。ぜひ来て下さい」
「晩餐会?」
「国中の貴族が集まります。みんな貴女に会いたいでしょう」
リンダが目を輝かせた。
「ダレス公爵家の晩餐会! さっそくドレスを御用意しましょう」
ダレスは、国の重要資産である『金鉱山』の管理を担当している。
エコーリア王国が豊かな理由は、南の山脈から豊富な金が産出するからだ。
ダレスは、採掘から輸出まで、すべての権限を握っている。
以前は国王が統制していたが、病床に就いてからダレスに代わった。
現在のダレスには、富と権力が集中している。
晩餐会は王宮より豪華だ。リンダの目が輝くのも当然だった。
その頃、
サーシャ王妃の部屋で、ネリーが膨れっ面をしていた。
「お母様はいいの? あの人が第1王女なんて」
「ネリーより、先にお生まれですから当然ですよ」
「下賤な歌手の娘よ。悔しくないの?」
「婚姻前のお話です」
膨れっ面のネリーに、サーシャが優しく声を掛けた。
「明日はダレス公爵邸で晩餐会でしょ。楽しんでらっしゃい」
「行かない。あの叔父さん、恐い顔で私を睨むから」
ネリーはサーシャの部屋を出た。
廊下を少し歩くと、物陰から声が聞こえた。
「明日は晩餐会で手が出せません」
ネリーは残念そうに応えた。
「仕方ないわね。近いうちに必ず」
「承知致しました」
ジーナは、国王の母〈王太后〉が使っていた部屋に通された。
王太后は2年前に亡くなったが、部屋はそのままだ。
サーシャ王妃やネリー王女の部屋より豪華、と聞いた。
今日からここが、ジーナの部屋だ。
リンダは、王太后の侍従だった。
王太后の死後は国王に従いたが、ジーナの侍従長に任命された。
「なんなりと御用命下さいませ」と言われたので、ジーナは一つだけ頼んだ。
「私の護衛はジェイクにしてほしいです」
「密偵隊の者ですか。王女様は、近衛兵が御守りしますが」
「ジェイクにもお願いしたいです。ここまで来れたのは彼のお陰だから」
要望は通った。
ジェイクは『ジーナ王女付きの護衛』になった。
次の日は、朝から忙しかった。
晩餐会は『食事会』だ。
ジーナは、正しい食事作法をリンダから教わった。
「ダレス公爵様の晩餐会は、お食事の前にダンスがあります」
「え???」
食事作法を覚えるのに精一杯だ。
「無理です」
「では、お誘いはお断り下さい。舞踏会までに練習しましょう」
リンダの指揮で、ジーナは貴婦人に変身した。
「お美しいです。ジーナ様」
ジーナは感謝の気持ちを伝えたが、
(く、苦しい……)
コルセットは、昨日より締まっている。
ジーナは『4頭立ての馬車』でダレスの城に到着した。
王太后の愛車を、リンダがピカピカに磨かせた。
馬車の右には、黒い馬に乗ったジェイクが寄り添った。
一番豪華な馬車で現れたジーナは、国中の貴族から注目された。
「あの御方が、第1王女のジーナ様」
「話題のジーナ王女の御登場だ」
「国王陛下によく似ておられる」
ジーナの元には、挨拶を求める貴族が押し寄せた。
リンダが爵位や領地を教えてくれるが、多すぎて覚えられない。
ダンスの申し込みは、丁寧に断った。
彼らを掻き分けて、ダレスがジーナの前に来た。
「ジーナ王女。一曲お相手を」
「せっかくですが、」
「そう仰らずに」
(えぇ〜〜)
ダレスはジーナの手を取り、ダンス会場の中央に躍り出た。
(あれ? 踊れてる??)
初めてのダンスだが、ダレスのリードで上手く踊れた。
「やはり貴女には、音楽全般の才能がある。さすがは王家を継ぐ王女だ」
「王家を継ぐ?」
「そのために王都に来たのでしょ」
「いいえ。私は大学に進学したいだけです。卒業したら、高校の先生になります」
「そんなこと誰が許しますか? 貴女は女王になる運命です。そして……」
ダレスは、ジーナの耳元に口を寄せて囁いた。
「私と結婚しましょう」
「は???」
「でなければ……、殺されますよ」
「!?」
「ネリーに」
(え? やっぱり本当なの?)
ジーナは、ネリーの無邪気な笑顔を思い返した。
(あの王女が??)
「守護隊の恐ろしさを知ってますか?」
「守護隊???」
「ネリーを守る組織です」
第1王女のサーシャがエコーリア王国に嫁ぐとき、父王は心配だった。
隣国に嫁ぐ娘の「身辺を守るように」と結成したのが『守護隊』だ。
『守護隊』はエコーリア王国でサーシャを守り、現在はネリーも守っている。
「彼らはネリーに忠実です。王宮の中でも貴女を襲うでしょう。ネリーは関与を認めないから、闇から闇です」
ジーナはジェイクの言葉を思い出した。
『ネリー王女は第1王位継承者だった。が、姉がいた』
それなら……、
「私は王位に興味が無いと、ネリー王女に話します」
「話しても無駄ですね」
「なぜですか?」
「貴女には、精霊に歌を捧げる能力があります。でも、ネリーには無い」
(え? どうして??)
ジーナは意外だった。
エコーリア王国の王が 精霊に歌を捧げるのは『国事行為』だ。
当然……、
「王子や王女も歌える、と思ってましたが」
「国王の子なら誰でも能力がある、というわけではありません」
ダレスは自虐的に笑った。
「私も歌えません」
「え?」
「だがネリーには、まだ可能性が残ってます」
歴代国王の中には、17歳で能力が宿った者が3人いる。
ネリーも「17歳になれば能力が宿る」と信じている。
17歳まで、あと半年。
半年後には、誰もが認める国王の証が手に入る。
なのに……、
[先に生まれた]というだけで、義姉が女王になるのは許せない。
しかも下賤な女の娘だ。
「ネリーにとって、貴女は邪魔な存在です。必ず守護隊を差し向けます」
ジーナは、大学を卒業したら村に帰るつもりだった。
でも、そんな〈簡単な話〉ではなさそうだ。
王宮にいたら殺される。
王都を出ても、命を狙われる。
ということは……?
「結論が出たようですね。ジーナ王女、私と契約結婚をしましょう」
王国1番の権力者 と 第1王女が踊っている。
集まった貴族たちは「これは、ただのダンスではない」と気付き始めた。
極秘のはずだが「国王重病」の噂は流れている。
「そろそろ身の振り方を考えねば」
「誰に付くのが得策か?」
顔を見合わせて、コソコソ話が始まった。
「契約結婚?」
「そうです。私は貴女の命を保証し、貴女は私に富を保証する」
「そんなこと、」
ダレスはジーナの言葉を遮った。
「断れば、貴女は明日にでも殺されますよ」
ジーナに選択の余地はない。
(第3話 おわり) 次のページは『今後の展開』と『結末』です。