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夜風が入ってくる大きな窓、その廊下には血を吐く男とその男の前にしゃがみ込む僕の姿があった
「…勝ちましたよ、先輩、約束通りにコインを置いたらこれ以上攻撃はしない」
「…るっせぇ…俺は…まだ…!」
「…」
自信があるのも大した物だ、でも自分に酔い過ぎている
「…だっさ」
そう呟いて立ち上がり、杖を振るう、空中には大きな手の形をした岩が浮かぶ、その手は壁に寄りかかる彼へと向かう
ボロボロな男は手を懐に入れてコインを取り出す、僕はそのコインを受け取る
「…コインくれたし、負けを認めたって事で」
そう言うとまだ初歩の治癒魔法を相手に掛ける、と言っても傷の治りが少し早くなるぐらい
「これなら1ヶ月も掛からずに治る、またね」
そう言うと僕は男に背を向けて歩く、何歩か歩くと後ろから物音がした、振り返ると第三魔牙のワースが杖を持っていた
「たく、治癒魔法掛けるなんて、俺が居なかったら攻撃されてたぞ?」
男は気絶している、僕が戦った時は気絶はしてなかったからワースがやったんだろう
「…どーも」
「利用するとか言っといて、甘ちゃんだな」
「僕の母上よりかはマシです」
僕の母上はどんな人でも許すのか、と言うぐらい心が広かった、一部を除いて
自分に害を及ぼした人はすぐに許すのに、父親や僕に害を及ぼした人は許さない、と言った所だろうか、子供の時はやり過ぎなんて思った時はあったが愛されていると実感出来て嬉しかった
ー10年前ー
「マイロ、お誕生日おめでとう!これがプレゼント、お母さんが作った帽子よ!」
そう言って母上は僕の頭に大きな帽子を被せた、僕は自分で帽子の位置を調整し、母上と父上を見上げた
「おめでとう、俺からは新しい杖だ、一緒に買いに行こう」
父上はそう言うと帽子の上から僕の頭を撫でてくれた、その時の2人の優しい顔が大好きだった
ー杖屋ー
「これは…!二本線でもかなりの魔力量ですね…!これに合うのは…」
杖屋の人が奥へと杖を探しにいった、僕は意味がわからなくて後ろの父上を見上げた
「凄いぞマイロ、お前はきっと強くなる!その時はお父さんと戦ってみようか」
「はい、父上」
「相変わらずお堅い息子だ」
そう言って父上は僕の頭を撫でてくれた、とても大きくて暖かいその手が大好きだった
「すいません…この子の魔力に合う杖がこれしかなくて…」
そう言われて渡されたのはドクロが乗ってる当時の僕ぐらいの大きさの杖だった、僕はその杖を両手で掴むと、なぜかとてもしっくりと来た、
「父上、僕これがいいです」
「わかった、この杖を下さい」
お店の人も父上も優しい笑顔で溢れていた、当時の僕は笑おうと頬を掴んで引っ張った、そんな僕を見て父上は笑い、僕の手を掴んだ
「無理に笑わなくてもいいんだ、笑わなくたってお前は俺の宝物だからな」
その言葉が嬉しかった、表情には出せなかったけど今までで一番穏やかな表情をした記憶があった
ー数日後ー
「マイロ、あそこの的に目掛けて魔法を打ってみなさい、よーく狙うの」
「はい、母上」
僕は杖を数メートル離れた的に向けて魔法を打った、当時はまだ小さな石を飛ばすぐらいしか出来なかった
「あらら…マイロ、目を閉じずに最後まで狙ってみて」
「わかりました」
そんな魔法でも母上は指導してくれた、ちゃんと僕を見ていると実感できて嬉しかった、
「当たったわ!凄いよマイロ!」
魔法を当たると僕以上に喜んでくれるのがとても嬉しかった、だから努力するのはそこまで苦しく無かった
「マイロは遠距離よりも中距離の方が得意かしら…」
母上は僕の前に沢山の的を置いた
「全て一撃で打ち抜けるかしら?失敗しても大丈夫よ!」
僕は悩んだ、前の小さな石では全て撃ち抜くのは無理がある、不意に自分の手に目を向けると思いついた、一番左にある的に杖を向けると右の的まで横に杖を振るう
まだ小さいが先程よりかは遥かに大きい手の形をした岩で的を打つ、と言うより叩くがしっくり来る形で的を全てひっくり返した、一呼吸起き母上の方を見ると母上が抱きついてきた
「凄いわマイロ!あんな発想お母さんには無かった!貴方は私の上を行ったのよ!」
嬉しかった、僕はもっと頑張って強くなろうと、そう思えた
ーその日の夜ー
屋敷が炎に包まれた、反逆者の仕業だった、僕はいち早く気づき母上と父上を起こして屋敷を出た
屋敷の外には黒い布を庇った人が数名、屋敷を後にしようと背を向けていた、父上がそいつらに向かって杖を向ける、父上の魔法は僕と同じような魔法だった、ただとても器用で逃げる奴らの足だけを石化した
逃げようとした奴らは顔をこちらに向ける、すると一番前に居た1人が歩いてきた、父上の魔法を避けたと考えた僕は同じように杖を向けた、
「ダメよマイロ、貴方はまだ手を汚してはいけない」
母上が聞いたことが無い低い声で僕の前に立った、僕は杖を向けるのを辞めて握りしめた 、
「大丈夫よ!お父さんもお母さんも強いもの!」
母上はこちらを向いて笑った、無理をした笑顔だった、すると母上はあいつらに向かって走り出した
その瞬間歩く男は父上が飛ばされた、屋敷まで父上が飛ばされてきた時、初めて怒りを覚えた
「…」
無言で、無表情の顔に涙を流しながら敵に杖を向ける息子を見て2人はどう思ったのだろう
上から岩の手で叩き潰しそうとしたらその男は同じような岩の魔法で僕の魔法を塞いだ、彼の黒い布はその勢いで脱げて顔が見えた、父上そっくりな大人だった、父上よりも年上だろうか
「マイロ、俺はお前のおじ様だ、お前を引き取りに来た」
「…なんで?」
僕が聞くとおじ様と名乗る奴はフッと笑った
「お前の父と母は努力なんて生ぬるい物で今ここに居るんだ、そんな両親お前には似合わない、だから才能ある俺が引き取りに来た」
「…何言ってるの?」
「こう言う事だ」
男がそう言うと僕の隣に居る立ち上がった父上の胸を岩の魔法で貫いた、父上の返り血が僕の手に着く、幼い僕でもわかった、父上は絶命したと
「…じゃあな」
男は僕に杖を向けた、逃げる事が出来なかった、母上が前に出てきて両手を広げた、僕を庇って岩になってしまった母上を見て、僕は杖を握りしめた
怒りで我を忘れていた、気が着くとおじ様を僕は殺し掛けていた、おじ様の頭に杖を向ける
「いいのか?俺を殺すと母親の石化と解く魔法を知っている奴は消えるぞ?」
「…なら僕が、その魔法を見つける」
「それでこそ俺の孫だ」
そう笑う男の頭を貫いた、不思議と罪悪感は沸かない、足を石化された奴は足を切り落としたり、諦めたりしている、そんな奴らを岩の手でなぎ倒した、
「こ…こんな…!呪われた子に…近づくんじゃ無かった…!」
足を切り落とした1人が逃げていった、追いかける気力もない、僕は後ろを向き、僕を庇った母親に抱きついた、
「手、汚してごめんなさい、石化が解けたら僕を怒って欲しい」
そう言って僕は燃え続ける屋敷を後に去った
EP4 呪われた子