「あ、着いた!」
そう声を上げたのは柚杏だ。
「皆〜!そろそろポロロッカが来るからちょっと移動だよ~!」
柚杏がそう大声を出すや否や、民族全員がいそいそと荷物をまとめ、集まって来た。
「そろそろ土地の移動時期だったし、ちょうどいいや」
「違いねぇ」
そんな言葉を先住民族達は交わしていた。
「柚杏様〜!海晴様〜!」
子供がテチテチと足音を立てて近付いてきた。
「今年は、川様は怒っていませんか?」
蒼空はそんな子供の発言に疑問を持っているようだ。川様が怒ると言うのは、不思議に決まっている。
「あ~、大丈夫だよ」
海晴は子供の目線に合わせて、そう言った。
なぜ、「怒ってないよ」と断言しなかったのだろう。なぜ、「大丈夫」と言葉を濁して伝えたのか、蒼空には到底理解できなかった。
そんなこんなで、海晴、柚杏、蒼空、先住民族達の順に並び、歩き出した。
蒼空が目の前にいる海晴に先ほどの質問を投げかけてみた。
「お怒りだよ。水位も上がってるし、最近は木が倒されるのもよくあった。今年は氾濫する」
「でも、そんな事を子供に言えないよ。怖がらせたくない」
淡々と、ただ前を向いたまま、海晴はそう告げた。
さっき、海晴が言葉を濁したのは彼の優しさだったのだということを、蒼空は理解したらしい。そんな二人の距離が少しづつ近づいていくのを柚杏は生暖かい目で見ていた。
暫く歩き続けると、さっき居た場所よりも少し高い所に来た。
柚杏はジャガーと戯れている。
「そっか、ありがとう」
海晴は植物と会話していた。
そんな二人を蒼空は羨ましそうに、キラキラと光る目で見つめていた。
夜になると、もう簡易的な家が建って、そこで先住民族達は寝ていた。
蒼空はなかなか寝付けず、アマゾン川をただ呆然と眺めていた。
「キン、そんな呑気にしてちゃ駄目だよ。ほら、そこの果物取って食べなよ」
柚杏は何やらキンカジューと会話しているようだ。
「あ、そんな比喩何処で覚えたのよ。じゃなくて、早く動きなよ」
どんな比喩なんだろう。蒼空の脳内にはそんな疑問が浮かんだ。蒼空は、そんな事が気になりすぎてさらに眠れなくなっている。
「よしよし、良い子。あ、もー」
海晴はそんな柚杏とキンカジューを愛おしそうに見つめていた。
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