第2話 「狙われる碧族」
🚀 シーン1:逃亡の夜
然(ぜん)——いや、ナヴィスは「ゼイン」と勝手に呼び続けていたが、今はそれを否定している暇もなかった。
冷たい夜風が吹き抜ける街の路地を、二人はひたすら駆け抜けていた。
背後では、ヴェール・バインドの追跡ドローンが無機質な光を放ち、彼らの行方を追っていた。
「ったく、いきなり命がけとか聞いてねぇぞ!」
然は息を切らしながら、ナヴィスに食ってかかる。
「お前、いつも言ってるだろ?“碧族は生きること自体が戦いだ”ってな!」
ナヴィスは悪びれもせず、ニヤリと笑いながら振り返る。
彼の明るい青い瞳が街灯の光を反射してキラリと光る。
「笑ってる場合か!こっちは初日だぞ!」
然は歯を食いしばりながら、懸命に足を動かす。
その後ろでは、黒い戦闘スーツに身を包んだヴェール・バインドの隊員たちが、サイレンサー付きの銃を構えて追跡していた。
「碧族発見。戦闘許可を申請」
「許可する、排除しろ」
指令が無線で飛ぶと同時に、無数の弾丸が宙を裂いた。
「チッ!」
然は咄嗟に身を伏せるが、ナヴィスは余裕の表情で指を鳴らす。
「《リバースバリア》——展開!」
すると、ナヴィスの前に青白い半透明のフィールドが出現し、銃弾を弾き返した。
それどころか、弾丸は発射された方向へと跳ね返り、ヴェール・バインドの隊員たちを襲った。
「クソ……またナヴィスの“ズルい”フラクタルか……!」
然は内心舌を巻いた。
ナヴィスは戦闘のとき、いつも守るために戦う。だが、その守りはただの防御ではなく、攻撃を兼ねたものだった。
「さぁ、ゼイン、そろそろお前も動けよ?」
「だから、その名前やめろって……!」
然は舌打ちしながら、左腕に意識を集中させる。
すると、腕の模様がわずかに光り始め——
「……《オーバーライド》、発動」
ヴェール・バインドの隊員たちが構えていた武器が、突然使用不能になる。
「武器が……!? 異常発生!」
「よし、今のうちに——行くぞ!」
ナヴィスが然の腕を引っ張り、二人は闇の中へと消えていった。
🚀 シーン2:逃げ込んだ先
裏路地を抜け、二人は廃ビルの中に駆け込んだ。
「はぁ、はぁ……まったく、初日からこれかよ……」
然は壁にもたれかかり、荒い息を整える。
「まぁ、オレがいるから大丈夫だって」
ナヴィスは余裕の笑みを浮かべながら、ポケットから何かを取り出した。
「はい、これ」
「……何だ?」
然が受け取ると、それは黒いスマホのようなデバイスだった。
しかし、普通のスマホと違い、画面には青白く発光する文字列が浮かび上がっている。
「そいつは“碧族専用スマホ”だ。中には“すずかAI”が入ってる」
「すずか……AI?」
「お前が知らないことは何でも聞ける。まぁ、オレのほうが詳しいけどな?」
ナヴィスは軽くウインクすると、くるっと背を向けた。
「これから、お前の碧族としての人生が始まるわけだ」
「……やめろ、そういう言い方」
然は苦々しく呟いた。
「まぁ、これから碧族としてどう生きるかは、お前次第だ」
ナヴィスの明るい青い瞳が、夜の闇の中で鋭く輝いた。
——そして、然の”新しい運命”が動き出した。