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鈴子は超現実主義なのでふだんは運勢とか占いなどに興味を持つことはなかった、ところが新調したばかりのApplewatchの初期設定で表示された星占いに、その時はたまたま目がいってしまった
いつもならやり過ごしてしまう所をその知事候補が挨拶に来るまでの数分間、暇なので、何気なく占星術コラムの所で自分の星座である獅子座の所を見た
『―獅子座のあなたへ―新月があなたの愛情面を照らします、あなたは今太陰周期の真っただ中にいますから、身のまわりに起こる新しい愛の大変革が迫っています、あなたと相性の良い星座は「乙女座」今日は愛の吉日、大いに楽しんでください』
ブツブツ・・・
「大いに楽しめって何を楽しむのよ・・・今から銀行家の強欲じじぃ達と資金提供の会議なのに・・・星占いなんかを信じる人達の気が知れないわ」
その日の午後には三つの会議を抱えていた鈴子は苦笑いしながら言った
数分後、「姫野浩二」が大勢の選挙事務所委員会の黒服達とオフィスに入って来た
恋愛音痴の鈴子の目から見ても、彼はすごいハンサムだった・・・
くせ毛の黒みがかった髪に黒い瞳、運動選手並みの筋肉質の体格、それに人の心を溶かすようなあたたかい笑顔・・・
こんな人が県知事?タレントになった方が良くない?
鈴子は心の中でそう思った、姫野浩二は榊原から鈴子を紹介されると、やさしい笑顔で鈴子の両手を握った
「あなたのことはいろいろ伺っています、この兵庫県にあなたの様な女性起業家がいらっしゃることは誇りです!」
「ありがとうございます、こちらも姫野候補の応援が出来る事を嬉しく思っていますよ」
大勢の黒スーツに囲まれて鈴子のオフィスは物々しい雰囲気になったので、関係者にはロビーで伊藤食品が誇る冷凍のランチボックスを振舞う事にした、榊原や政治関係者がミーティング・ルームでランチを取っている間
オフィスには鈴子と姫野浩二、二人が残されてソファーで向かい合ってランチを取っていた
姫野浩二は、鈴子が予想していた人物像とはまるで違っていた、彼には相手がどんなに敵意を抱いていようとも、それをすっかり取り除いてしまう誠実さが感じられた、そして屈託なく笑い、部屋の中が明るくなるというのは、女性の場合にだけ用いられる形容詞ではないなと鈴子は彼を見てそう思った
「あなたはなぜ県知事に立候補なさったんですか?」
ランチ時の何気ない会話で鈴子は彼に質問した
「ごく単純な動機です、私は兵庫県は素晴らしい土地だと考えています、ここに住む我々はその事を知っている、そしてその魅力を楽しんでいます、でも、この国の多くの人達は、我々を隣の大都市、大阪の付属だと思っています、西の大阪、東の東京・・・ただ、単に人口が多ければ良いというものではない、僕はそういうイメージを変えたいと思っているんです、兵庫県は他の州が束になってかかってきても、負けないポテンシャルを持っているんですよ、例えばですね・・・この国の戦国時代の歴史はこの土地から始まったんですよ・・・」
「へぇ・・・」
姫野浩二が前のめりになって熱弁している、黒い瞳が鈴子を見つめている、彼女は姫野浩二の話に次第に引きずりこまれていった、そして彼には強い説得力があった、鈴子は自分が彼に強く惹かれていくのを感じた
―目が・・・綺麗だわ・・・黒曜石見たい・・・テカッと光っている・・・いくつだった?たしか私と同じ年だったはず―
「・・・ちょう・・・会長・・・」
ハッと鈴子は彼の瞳に見とれている我に返った
「すいません・・・僕だけが一方的にべらべらしゃべってしまって・・・このキャンペーンが上手く行くかどうかは、あなたが僕に強い興味を持ってくれるかどうかにかかっていると思ってしまって・・・」
ポリポリと姫野浩二はバツが悪そうに頭を掻いた
「今の所上手くいってますわ」
鈴子はクスクス笑いながら、冷蔵庫からペットボトルの水を取り出して彼に渡した、自分はランチボックスを半分ほど食べ終わっているのに、彼は必死にしゃべるものだからランチボックスに手をつけていない
「本当にあなたのお話に共感しましたわ、あまり時間もないでしょうから、どうぞランチを召し上がって」
「はっはい・・・」
途端に必死に彼はランチボックスをバクバクと口の中に掻き込み出した、食事をする間も惜しんで政策を語る熱心な彼を可愛らしいと思った
それから、鈴子はちょっとためらいを覗かせて訊いてみた
「個人的な事なんですけど・・・ひとつ質問してもいいかしら?」
「何でもどうぞ」
口をもぐもぐ動かしながら、彼のやわらかな笑みがこちらに投げかけられた、鈴子は心が温かくなった気がした
「あなたの星座は何ですか?」
ぐびぐびペットボトルの水を一気に飲んだ姫野浩二がプハッと一息ついて言った
「乙女座です」