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──それは、ほんの数分の出来事だった。
ミンジュを襲おうとした人物は“ファン”を装ったSubだった。
だが、その背後には、明らかに個人の嫉妬だけではない意図があった。
「警察に連絡は?」
「うん、処理済み。ただ──」
ホソクが深刻な顔で言った。
「……あのSub、ユリと繋がってたみたい」
ミンジュの指が止まる。
「連絡履歴、DMのやり取り、全部ユリの裏垢から。
しかも、複数人に“行動を促すような言葉”を送ってる」
「……それって」
「もう“個人の感情”の域を超えてる。
立派な、組織的ストーキング。いや、……つがい破壊行為だよ」
⸻
その日の夜。ジョングクは、ベッドの上でうなされていた。
汗が額を濡らし、指がベッドのシーツを握りしめる。
「……っ、ヌナ……っ、俺……っ」
ミンジュが触れた瞬間、彼の身体がビクンと跳ねた。
「グガ、大丈夫……! 落ち着いて、ここにいるから……」
ジョングクの本能が、彼自身をも壊そうとしていた。
SSクラスDomの“過負荷”。
これは、つがいとの完全同調が不安定な状態で長く続いた場合に起こる症状。
いわば、“Subに触れられないストレス”と“保護本能の暴走”の合わせ技。
「ヌナ……お願い……そばに、いて……っ」
彼はいつものような落ち着きなどなかった。
理性が崩れ、むき出しの欲と不安が彼を覆っていた。
ミンジュは、彼の顔に手を添えた。
「私はここにいるよ。グクの隣に……私たちは、つがいでしょ?」
その一言で、彼の動きが止まる。
赤く染まった瞳が、涙のように潤んだ。
「……ヌナ……」
ミンジュがそっと額に口づけを落とした瞬間、
彼の身体から“バースの波動”が静かに広がった。
その波がミンジュに届いたとき、彼女の中にも変化が起きた。
体温が上がり、皮膚が敏感に震える。
──これは、完全共鳴の前兆。
⸻
翌日、事務所に届いた一通の匿名メールが、全てを変えた。
件名:【SS-Class Pair / 対象保護措置の提案】
本文には、ミンジュとジョングクの名前。
そして“ある研究機関”の存在が記されていた。
《SSクラスのDomと希少Subのつがい化は、社会的・生物的に重大な影響を与える可能性があります。
つがいの安定を確保するため、機関にて一時的な保護・管理を提案します》
──保護。
それは名ばかりの監視と制限だった。
「……グガ、これって──」
「知ってる。“あいつら”は前から動いてる。SSクラスを“管理下”に置くのが目的なんだ」
ジョングクの声は、怒りに震えていた。
「でも、ヌナは絶対、渡さない。俺はもう、ヌナの匂いなしで眠れない。
ヌナがいなきゃ、まともに呼吸もできない」
それは、支配ではなく、絆だった。
欲でも依存でもない、絶対的な“繋がり”。
「誰がなんと言おうと、ヌナは俺のつがい──命の、片割れです」
⸻
その頃、ユリは密かに姿を消していた。
彼女が最後に使っていたSNSアカウントは削除され、
その痕跡を辿っていたジミンは、あるファイルに辿り着く。
《“Project Rein”──希少つがい対象の研究プロジェクト》
そのファイルには、見覚えのある二人の名前があった。
「……ミンジュ……ジョングギ……」
ジミンは強く拳を握る。
「もう一度だけ、そばに立たせてくれ──守るために」