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藤塚 太陽
64
#友情系
りんご様
38
コメント
1件
第3話、めっちゃエモかった…!「名前を呼ばれるのと、ちゃんと見られるのは違う」って台詞に心臓ぎゅーってなった😭 相沢くんが教室の空気を無視して彼女の名前を呼んだ勇気、尊すぎる…。座席表が薄くなってる描写と「あと一日」の文字が不気味で、これからの展開が気になりすぎるよ!!続きが待ちきれない〜😆💕
「明日、私の名前を呼んで」
夜中に届いたそのメッセージを、僕は何度も見返した。
差出人は、登録していない番号。
返信しようとしても、送れない。
桜庭ひより。
その名前を、朝まで何度も口の中で繰り返した。
教室に入ると、彼女の席は空だった。
窓際から二列目、前から三番目。
机はある。
でも、桜庭さんはいない。
それだけで、教室が少し間違って見えた。
チャイムが鳴る直前、扉が開いた。
「セーフ!」
桜庭さんが笑いながら入ってくる。
友達に囲まれて、いつも通りに笑っている。
でも僕には、その笑顔が昨日より少しだけ薄く見えた。
休み時間。
僕は立ち上がった。
田崎が「おい、相沢?」と声をかけてきたけれど、無視した。
数メートル先の彼女の席まで歩く。
たったそれだけなのに、教室中を横切っているみたいだった。
桜庭さんが僕を見る。
「なに?」
僕は息を吸った。
「桜庭さん」
それだけでは足りない気がした。
だから、もう一度。
「桜庭ひよりさん」
教室が一瞬、静かになった。
彼女の友達が笑う。
「なに、フルネーム?」
「告白?」
違う。
そんな軽いものじゃない。
桜庭さんだけが、笑っていなかった。
まるで、ずっと探していたものを見つけたみたいな顔をしていた。
「……なに?」
「放課後、少し話せないかな」
また教室がざわついた。
でも彼女は、僕を見たまま言った。
「いいよ。昨日の教室で」
昨日の教室。
彼女が一人で泣いていた、三階の空き教室。
放課後、僕がそこへ行くと、桜庭さんは窓際に立っていた。
夕方の光が、彼女の横顔を薄く照らしている。
「メッセージ、来たんでしょ」
僕はスマホを見せた。
「明日、私の名前を呼んで」
桜庭さんは、それを見て小さく首を振った。
「私じゃないよ。送ってない」
「でも」
「でも、思ってたことと同じ」
彼女は窓の外を見た。
「呼んでほしかった。誰かに、ちゃんと私の名前を」
僕は何も言えなかった。
「毎日、名前なんて呼ばれてるのにね。変だよね」
「変じゃない」
気づけば、僕はそう言っていた。
「名前を呼ばれるのと、ちゃんと見られるのは、たぶん違うから」
桜庭さんは、少しだけ泣きそうな顔をした。
「相沢くんって、そんなこと言う人だったんだ」
「僕も知らなかった」
彼女は笑った。
昨日より、少しだけ自然な笑い方だった。
「私ね、たまに自分が薄くなってる気がするの」
「薄く?」
「教室にいても、みんなと話してても、私だけそこにいないみたいな感じ」
彼女の声は静かだった。
「明るくて、優しくて、空気読めて、怒らない桜庭ひより。みんなが見てるのは、たぶんそういう私だけ」
僕は聞いていた。
逃げずに。
「それが本当に私なのか、分からなくなる」
そのとき、僕のスマホが震えた。
登録していない番号。
本文は一行。
「その名前を、忘れないで」
桜庭さんが息をのんだ。
「今の、私にも見えてる」
僕たちは画面を見つめた。
もう、ただの夢じゃない。
桜庭さんは震える声で言った。
「もし私が本当に消えたら、相沢くんは覚えててくれる?」
「覚えてる」
「笑ってるだけの私じゃなくても?」
「それでも」
「面倒くさくても?」
「それでも」
彼女は唇を噛んだ。
「じゃあ、明日も呼んで。ちゃんと、名前で」
「呼ぶ」
そのとき、窓から強い風が入った。
積まれた机の上から、古い紙が一枚落ちる。
拾い上げると、それは座席表だった。
一年二組。
田崎。
相沢。
桜庭ひより。
けれど、彼女の名前だけが薄くかすれていた。
消しゴムで何度もこすられたみたいに。
その下に、小さな文字があった。
あと一日。
⸻
*田崎
相沢が変だ。
あいつは目立たない。
誰にも踏み込まない。
そういうやつだった。
でも今日、桜庭の名前を呼んだ。
その瞬間の桜庭の顔を、俺は見た。
あれは、驚いた顔じゃない。
見つけてもらった人の顔だった。