甘えているのは蓮の方だったのか、と思った
スタジオに残り、そっと抱き合っている2人を見つけた時、その優しい優しい空気感は翔太が作り出しているものだと、ほとんど直観的に一瞬でわかった
幸いにも2人からは見えない位置で気づかれてはいなかったから、邪魔をしない方がいいし早く楽屋に戻ろうと思うのに、なぜか足は動かなかった
目を離せなくてじっと見つめていたら、そっと肩に手が置かれて身体からふっと力が抜ける
ふいと見上げればラウールに優しい目で見下ろされてて、導かれるままに楽屋へと戻る
「優しいんだ、しょっぴーは」
「うん」
「普段甘えてるのはしょっぴーだけど、ほんとうは、めめの方がずいぶんと心の支えにしてるんだよ」
「うん」
「俺もさ、初めて見ちゃった時は佐久間くんみたいに動けなくなっちゃった」
「どうしたの?その時は」
「館さんが、連れ出してくれた」
「そっか」
楽屋まで到着すると、ラウールはそっと離れていった
俺はぼんやりとしたまんま、ソファに座る阿部ちゃんの隣に座った
「どうしたの、佐久間」
戻って来ない2人を探してスタジオに行ったはずが、結局1人で戻ってきた俺に不思議そうな顔をしている
「んー、前言撤回だなと思って」
「何が?」
「蓮と翔太のこと」
「2人がどうしたの?」
「ん、阿部ちゃんもそのうち分かるよ」
「…はぁ?」
「これは見た人にしか伝わらん」
「よく分からないけど、聞いても無駄なのね」
「うん」
阿部ちゃんはもう、参考書に視線を戻している
映画のワンシーンを見ているかのような心の震えをリアルで体験すると思ってなかった
普段と変わらなさそうなんてとんでもない
あんな、目が離せなくなるような、それほどに深い深い情愛が、あの2人の間にはあるのだ
でもきっと、本当の意味でそれに気付いているのは蓮の方だけで、翔太の方は無自覚なんだろう
あれほどではなくても、翔太の深い優しさは時たま片鱗を見せる
表面的にはただの優しさだが、その裏にある相手への思いやりの深さは尋常ではない
気付いてしまったが最後、抜け出せない沼のような優しさなのだ、惹き込まれるやつは沢山いる、これからだって、きっと
「ふ、蓮は大変だな」
その愛情を一身にうける幸せと、翔太の魅力に気づくやつが増えるたびに感じるであろう不安と
「あー!俺も恋してー!」
「うわっ!ほんとなんなの、さっきから」
急に大きく伸びをして声を上げる俺に、阿部ちゃんは怪訝な顔を向ける
視界の端で面白そうに笑うラウールが見えた
コメント
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うほー、ほんと、素敵💙
