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「私のことですか?」
「うん」
「ステラ様の侍女だから……ステラ様が、私のこと知りたいと」
「うん」
「……」
「ダメかな」
「いいですよ。私に、興味持ってくれたの、ステラ様が初めてかも知れません」
ニヘラとした笑みを向けるアウローラ。どんな風に人の心を掴めば良いか分からない。いや、そんなこと考えることすら無粋かも知れない。でも、一緒にいる人のことは知りたいと思ってしまうのが私だった。アウローラが私に心を開いてくれるかは微妙だったけれど、肉塊との戦いも経て、少しだけ近付いたのかも知れないと。勝手にそう思っている。
私は、アウローラも席に着かせて、向かい合う形で話を聞くことにした。人と向かい合うと、恥ずかしいし、私も顔を逸らしそうになるけれど、自分でいったんだからと、彼女の顔を見て、にこりと笑ってみた。アウローラは、ぎこちなく私に微笑み返すと、自分の手の指を絡ませて、ポツリポツリと話してくれた。
「ステラ様もご存じだとは思いますが、私の魔法は、爆破魔法です。火の魔法の派生形と思ってくれればいいです。その爆破魔法ですが、少しの魔力で、大きな爆発を起こすことが出来るんです。でも、それが攻撃向きであるかどうかは、人に寄ります」
「アウローラの血筋は、火の魔法だったってこと?それとも、爆破魔法に派生した血筋?」
「……火の魔法です。ですが、私が、爆破魔法を生み出したせいで、私に向けられる目は、冷たくなりました。魔法の属性というのは、その家にとっての象徴であり、大切なものですからね。ですので、私が、火の魔法を派生させたことにより、家が一度崩壊しかけました。といっても、爆破魔法を使えるのは私だけでしたし、追い出してしまうのが一番だと考えたんでしょう。ただ、派生形の魔法を使えるのは、少ないので、追い出すのを惜しいという声もあったんです」
派生魔法でいえば、フィーバス卿も、ラアル・ギフトもそうだろう。元々あった五属性の魔法から派生させて生れさせた新たな魔法。光と闇が主に、そのどちらでも火、水、木、土、風と使える。アルベドの所は風で、ルクス、ルフレは火だった。まあ、ルフレは土魔法だったけど、基本的に、全て使える上で、特化した魔法をその家の主魔法としているのだろう。
アウローラの所は火だったと。
まあ、確かにそう言うのを大切にしている貴族の気持ちというか分からなくもないけれど、それで追い出す、利用するというのは違うのではないかと思った。それこそ、人権がないようにも思えるし。アウローラは、それに苦しめられてきたと。
「まあ、それで捨てられたわけですが、フランツ様に拾って貰えて。フランツ様も、水の魔法の派生系である氷の魔法を使っていましたし、私のことよく理解してくれて」
「アウローラにとっては、お父様は救世主みたいなものだったんだね」
「みたいじゃなくて、そうなんです。実際、フランツ様に理解されなかったら、私の魔法なんか、あっても意味ないようなものだったので」
と、アウローラは俯いた。魔法というのは、本当に特殊なものだなとつくづく思う。新たな魔法を発見したからといってそれが良いものだって思われないときもあると。ただでさえ、闇魔法云々といわれているのに、光魔法でも差別があるとすると……
「貴族は、強い魔法が使えれば使えるほどいいんです。ですが、家門に泥を塗ることも嫌う。本当に面倒くさいですよね」
「分かる……」
「ステラ様には分かりませんよ。だって、記憶喪失なんですよね」
「……」
「ごめんなさい。突っかかってしまうんです。悪いって思っていても……あー嫌ってもいいですよ。嫌われて当然です」
アウローラはそういってヘラヘラと笑っていた。それが慣れているとでもいわんばかりの態度に、何だか胸がギュッと締め付けらられた。慣れてしまってはいけない。いや、慣れてしまった私が言うのも間違っているかも知れないけれど。
「そんなの、慣れるべきじゃないと思う」
「え?何の話ですか」
「アウローラの魔法は確かにすごかったもん。それは、私が保証する。それを認めない方がおかしいと私は思うから」
「ステラ様は優しいんですね。でも、貴族ってそう簡単じゃないんですよ。闇魔法が、闇魔法がいわれてますけど、光魔法だってそう変わらない」
「分かった。分かってるっていうのやめるから」
私はそう言うことしか出来なかった。彼女が受けてきた悲しみというのは、私が思っている以上なのだろう。これ以上同情らしいことをいえば、さらに苦しませるだけだと思った。それは私も望んでいない。
私が、首を横に振れば、アウローラはところで、と話を変えた。
「私の魔法を誉めてくれるの、そこはすっごく嬉しいですよ。ステラ様の魔法見くびってましたから、ステラ様のもびっくりして。本当に、記憶喪失なんですか?」
「私の魔法は……まあ、光魔法が使えるのはそう」
「架け橋になるかも知れませんね」
「え?」
「ほら、アルベド・レイ公爵子息様と仲がいいじゃないですか。だから、もしかしたら、光魔法と闇魔法が手を取り合える世界を作る鍵は、ステラ様なんじゃないかって」
「い、いきなりどうしたの。アウローラは、闇魔法の魔道士に……どんな風に思ってるの?」
「別に。敵対しているってことぐらいじゃないですか。後は、そう……ヘウンデウン教との繋がり」
と、アウローラは言葉を句切った。
まあ、闇魔法の魔道士が嫌われているの今に始まったことじゃないし、でも、アウローラそういってくれるなら、何だか嬉しいなと思った。単純かも知れないけれど。
「架け橋になれるかどうかは分からないけど、それはやってみたいと思う」
「ステラ様の意思ですか?」
「まあ、うん……そうかも。闇魔法の魔道士が、全員悪いわけじゃないだろうし、そりゃ、やり方は間違っているかも知れないけれど、あの人なりのやり方だし、それを尊重してあげたいというか……」
「……」
「ど、どうしたの?」
「やっぱりなんですけど、ステラ様って、アルベド・レイ公爵子息様のことが好きなんですか?」
「え?」
私は、思わず聞き返してしまった。何故、今の話で、アルベドの話が出てくるのだろうと、そう首を捻っていれば、ずいっとアウローラは身を乗り出した。
「私、もの凄く、恋バナしたかったんです!それも、貴族令嬢が、身分差恋とか、大きな障害がそこにあるとか!なんか、今すっごくドキドキしてます」
「アウローラが?って、違うって、私は別にアルベドの事そう思ってないし」
「そもそもですよ!?アルベド・レイ公爵子息様は、表舞台に出てこない問題児なんです。あの問題児貴公子が、ステラ様のことを気に入っているというだけでも大事なのに!きゃーワンちゃんあるかもしれませんね!」
などと、アウローラは一人盛り上がって、頬に手を当てていた。こういう人の恋が好きなのは、女の子っぽいというか、乙女っぽいというか。でも、何でもかんでも共通点とか探して、それに繋げられるのは嫌だった。でも、私が好きな人を言ったところで、それこそ、何でという話になりそうだった。けれど、アルベドだって言い切るのは出来ない。
私が好きなのは、変わらない、あの眩い黄金で――
「で、ステラ様はどうなんですか。あ、でもフランツ様が、勝手に婚約とか許しそうにないですもんね。ステラ様はどうお考えですか?」
「……いや、今のところ、そう婚約とか興味なくて」
「でも、令嬢としてこれ以上ないほどビッグイベントじゃないですか!?」
「確かにそうなんだけど……」
「フランツ様が、ダメと仰ったんですか!?もしそうでなければ、本当に光魔法と闇魔法の架け橋になるかも知れませんよね!アルベド・レイ公爵子息様顔はいいですから」
「顔は」
「中身は知りませんよ?でも、ステラ様は知ってるんじゃないですか?」
ね、どうなんですか? と、私に詰め寄ってくるアウローラ。こういう話好きなんだなあ、と思いつつも、若干おされているところもあり、私は返答に困った。確かに、光魔法と闇魔法の貴族が結婚したという事例はないようだし……
「まあまあ、フランツ様が黙ってないでしょうけどね」
「う、うん。そうだね……アウローラ」
「何ですか?」
「やっぱり、アウローラには侍女を続けて欲しい。あ、あ、もちろん、解雇とかいう話ははじめから出てなかったけど、何だか距離も近くて、話しやすいし。それに、アンタの魔法気に入ったから、私の側にいて欲しい。だから、これからもよろしくね」
「……っ、はい。分かりました。ステラ様」
戸惑った顔から一瞬にして花が咲く。
恋バナで距離が縮まったのだけは癪だったが、これで、彼女とのわだかまりがどうにか解消されたのはよかったと思う。それにしても、私の侍女は個性豊かで、その上強くて頼もしいなと思った。
「…………婚約か」
前の世界では、そこまで深く考えていなかった。前世では、それに対する効力とかも考えていなかったし……でも、リースとは婚約者で。
(……早く会いに行かなきゃ。全てが後戻りできなくなる前に……)
私は、新たな信用出来る侍女を前に、彼のことを思い浮かべていた。