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練習が終わり、夕暮れ時のコートにオレンジ色の光が差し込む。
「練習終了! 片付けをして宿舎に戻れ!」
部長である成瀬先輩の号令で、部員たちが一斉に動き出した。
「お疲れ様、紗南ちゃん。審判、完璧だったよ。……はい、これ。お礼のタオル」
凌先輩が、自分のバッグから出したばかりの綺麗なタオルを差し出してきた。
「あ、ありがとうございます。でも、これは先輩が……」
「いいんだよ、僕には予備があるから。それに、審判台の上は風が強くて冷えたでしょ?」
どこまでもスマートな凌先輩の気遣い。
そこへ、山積みのボールカゴをガラガラと引きずりながら、遥が割り込んできた。
「……おい、紗南。タオルなんかいいから、先にこのカゴ運ぶの手伝え。重くて動かねーんだよ」
「えっ、あ、うん。すぐ行くね」
強引な遥の呼び出しに、私は慌ててタオルを鞄にしまい、彼の方へ駆け寄った。凌先輩は「遥、相変わらず余裕がないね」と苦笑いしているけれど、遥はそれを無視して、わざと私と先輩の間に割り込むようにカゴを置いた。
二人の無言の火花を背中に感じながら、私は必死にボールをカゴに詰め込む。すると、隣でネットのハンドルを回していた成瀬先輩が、周囲に聞こえないような低い声で私に囁いた。
「……ねえ、紗南ちゃん。さっきの審判、先生に褒められてたわね。正直、ちょっと羨ましかったわ」
「えっ、あ……すみません、成瀬先輩」
「謝らなくていいわよ。……それより、勝負は今夜よ」
成瀬先輩の瞳が、夕闇の中で怪しく光る。
「バーベキュー。……私、先生の隣をキープして、お肉を焼いて差し上げるつもりだから。紗南ちゃん、あんたは絶対に『あの二人』に邪魔させないで。……いいわね?」
部長としての命令か、一人の乙女としての懇願か。
夕食のバーベキューは、昼間の練習以上に波乱の予感がしていた。