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「……奈緒! あんた、よくも……!健一、あんたもよ! 殺してやる、出てきたら絶対に二人とも殺してやるから!!」
朝の閑静な住宅街に、里奈の絶叫が響き渡る。
手錠をかけられ、パトカーに押し込まれる彼女の姿を、私はベランダから優雅に眺めていた。
隣でガタガタと震えながらその光景を見ている健一の肩に、私はそっと手を置く。
「……よかったわね、健一さん。これで、あなたを乱暴に扱う人はもういないわ」
「……ああ…ああ……」
健一の口から漏れるのは、安堵なのか絶望なのか判別できない、枯れた吐息だった。
里奈という「暴力」は去った。
だが、それは同時に
彼を現世に繋ぎ止めていた数少ない人間関係が、すべて断絶したことを意味していた。
家の中に入ると、そこは完璧に静まり返っていた。
部長は里奈に使い潰され、実家の両親は亡くなるか失墜し、愛人は刑務所へ。
広すぎるリビングで、健一は行き場を失い、私の足元に力なく座り込んだ。
「ねえ、健一さん。お腹が空いたわ、里奈さんがいなくなったお祝いにとっておきのディナーを作ってくれる?」
「……何を作れば…いいんだ?」
「そうね……。あなたが里奈さんと、ナオミの悪口を言いながら食べていた、あの高級イタリアンの再現はどうかしら? レシピは覚えているでしょう?」
健一はフラフラと立ち上がり、キッチンへ向かった。
もはや、彼を動かしているのは意志ではなく
私に捨てられれば死ぬしかないという「本能的な恐怖」だけだ。
食卓に並んだ料理は、見た目こそ華やかだが、どこか生気がない。
私は一口だけ運び、すぐにフォークを置いた。
「……不味いわ。心がこもっていないもの」
「っ、すみません! すぐに作り直します、だから……!」
「いいわよ。その代わり、健一さん。……新しいルールを決めましょう」
私はスマホを取り出し、ナオミのアカウントのパスワードを、目の前で変更した。
そして、彼が持っていた唯一の通信手段───
あの「ナオミ用スマホ」を、シンクの中に沈めた。
「もう、ナオミはいらない。……ここには、妻の私と、私の所有物であるあなたしかいないの。…今日から、この家を一歩も出てはいけないわ」
「……え?」
「買い物も、ゴミ出しも、すべて私がやる。あなたはただ、この四壁の中で、私のために家を磨き、私のために食事を作り、私を待っていればいい。……外界の光は、あなたには眩しすぎるでしょう?」
完全なる監禁
物理的な鎖ではなく、精神的な死によって、彼はこの家に縫い付けられた。
「さあ、お返事は?」
健一は、水に沈んだスマホを見つめた後、ゆっくりと私の足元に頭を下げた。
「……わかりました……だから、俺を、置いていかないでください」
その瞳から、最後の理性が消えたのを私は確認した。
ようやく、私の「理想の復讐」が完成したのだ。
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#大人ロマンス
#サレ妻