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梓たちがコインパーキングに駐車した車の中で駿の帰りを待っている頃、駿はワイヤレスイヤホンから聞こえる刑事の指示に従い裏路地を歩いていた。
「皆川さん?聞こえますか?」
ワイヤレスイヤホンからは刑事の声が聞こえてくる。
「あ、はい!大丈夫です!」駿は慣れない緊迫した状況下で緊張している様子で、終始畏っている。
「焦らないで大丈夫です!安心してください!我々がついていますので!」刑事が駿を落ち着かせるように言葉をかける。
「は、はい・・わかりました」
駿がしばらく歩くと駿の目の前にRAMの看板が現れる。
「あ、ありました・・RAMです・・ありました」
駿がRAMの前に立つ。目の前にはネオン管で「BAR RAM」と書かれた、紫色に発光する看板があった。
「では皆川さん!店内に入るとバーテンダーから、カウンター席に座るように言われますので、言われた通りに座ってください
それから適当にお酒を注文して、金森こずえの来店を待ってください」
駿は刑事の指示通り にドアを開きRAMの店内に入る。
駿がドアを開けると、客の来店を知らせるように、ドアに取り付けられたドアベルが、カランコロンと綺麗な音色を奏でる。
「なんか結構普通のバーって感じだな・・・」駿は心の中でつぶやく。
店内は、裏で秘密裏に売春の斡旋を行っているとは到底思えないほどに、ごくごく普通のバーという感じだった。
駿が店内を興味深く見回していると、バーテンダーと思しき男性が話しかけてくる。
「お客様?初めてお見かけする方ですね?新規の方でしょうか?」
「え、ええ・・ここのバーテンダーさんが作るお酒が、その、おいしいって・・会社の同僚に聞きまして・・あはは」
駿は精一杯の笑顔でバーテンダーに応える。
「そうでしたか!それはわざわざご来店いただき、ありがとうございます!さあ!こちらのカウンター席へどうぞ!」
「あ、は、はい!」
駿はバーテンダーに促されて席に座る。
「お飲み物はいかがいたしましょう?」駿が席に座るとバーテンダーが注文を聞いてくる。
「あ、えっと、そうですね・・ハ、ハイボールを一杯いただけますか?」
駿ら慣れないバーという空間で、慣れない潜入捜査という事もあり、焦った様子で応える。
「ご希望の銘柄などはございますか?」
「そうですね・・なんか飲みやすくて初心者にオススメなウイスキーって何かありますか?ちょっとそっちには疎くて」
「初心者にオススメですか・・そうですね」
バーテンダーは棚にディスプレイしてある無数のウイスキーを眺めて考え込む。
するとそのの中から1本を手に取り駿の目の前に持ってくる。
「こちらは初心者の方にオススメの1本となっております!グレンフィディック12年です」
「グレン?どんなウイスキーなんですか?」
「フルーティーでスムーズな口当たりが特徴のウイスキーで、ハイボールはもちろん、ロックやストレートでも美味しく召し上がっていただけるかと」
「じゃあ、それでお願いします」
駿がそう言うと、バーテンダーは小慣れた手つきでハイボールを作り始める。
「今のところは、お母さんの姿も梶橋の姿もありません。いたって普通のバーって感じです」
駿は周りに気づかれないような小声で、無線機に向かって語りかける。
「分かりました。しばらくは一般の客を装って出されたお酒を飲んでいてください」ワイヤレスイヤホンから刑事の指示が聞こえてくる。
「わ、分かりました」
そんなやりとりをしているうちに、ハイボールが出来上がったようで「お待たせいたしました!グレンフィディック12年のハイボールになります」
バーテンダーが駿の前にナッツが盛られた小皿と一緒にハイボールが入ったグラスを置く。
「あ、ありがとうございます」
駿は出されたグラスを手に取りハイボールを飲む。
「わ!これ飲みやすくておいしいですね!」
駿が飲んだハイボールは、驚くほどにアルコール感が強くなく、口当たりよくなめらかで、今まで飲んだどのハイボールよりも飲みやすかった。
「ご満足いただけましたか?」
「はい!めちゃくちゃおいしいですよ」
駿はハイボールの飲みやすさに感激する。
「それは良かったです!おかわりが御所坊でしたら、お気軽にお声かけください」バーテンダーはそう言うと、奥の方に消えていく。
「というか俺、何楽しんでんだよ!目的を忘れるな!バカか!」
駿は心の中で自分に喝を入れる。
駿がしばらくハイボールを嗜んでいるとワイヤレスイヤホンから「皆川さん!金森こずえです!金森こずえが店内に入っていきます!」と刑事の焦った声が聞こえてくる。
若干ほろ酔い気味だった駿の体からアルコールというアルコールが一気に消え去り、一瞬で酔いが覚める。
「わ、わかりました!!」駿の心臓がドクンドクンとうるさいほどに鳴る。
するとドアが開きカランコロンというドアベルの音色が店内に響き渡る。
駿は恐る恐るドアの方に視線を向けると、そこには金森こずえの姿があった。
「い、居た!梓のお母さんだ!」駿は冷や汗をかいて生唾をゴクンと音を立てて飲み込む。
こずえは探偵から見せらた写真と同じくハイブランドの衣服を身につけており、慣れた様子でカウンター席に座る。
「これはこずえ様!ご来店ありがとうございます」バーテンダーは丁寧に頭を下げる。
「こずえ様?ただの常連客に様なんてつけるかな?」
駿はこずえに対するバーテンダーの接客態度に疑惑を抱きながらも、気づかれないように聞き耳を立てる。
「いやねもう!様なんて付けないでいいって言ってるじゃない!ふふふ、まぁ、いいわ!とりあえずお任せのカクテル一杯もらえる?」
「かしこまりました!」
バーテンダーがカクテルを作り始めると、こずえはタバコに火をつけて「ふぅ〜・・・」と口から濁った煙を吐き出す。
「俺・・いきます」駿は無線機に向かって小声で話しかける。
「皆川さん!くれぐれも慎重にお願いします!金森こずえと梶橋の関係は極めて不透明なのが現状です!必要以上の会話は控えてください」ワイヤレスイヤホンから刑事の指示が聞こえてくる。
刑事も若干焦っているようで、鬼気迫る物を駿は感じた。
「はい・・わかってます・・・」駿は無線機で刑事にそう言うとこずえにゆっくりと近づいていく。