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「あの・・金森こずえさんですよね?」
駿はタバコを吸うこずえに話しかける。
「はぁ?あなただぁれ?」こずえは駿の顔を見て、タバコの煙を吹かす。
「俺の事・・分かりませんか?」
「いや、誰よ!あんたなんか・・」こずえは言葉を詰まらせ、駿の顔をじっくり見ると「あんたは・・梓の担任の?」
こずえは駿に気付いたようで驚いたように目を見開く。
「へぇ〜・・最近は高校教師もこんなバーでお酒飲むの?時代は変わったわね」
「俺はあなたに会いに来たんです!金森さん!」
「はぁ?私に?何の用よ?」こずえはタバコを灰皿に押し潰しながら不思議そうな顔をする。
「随分と自宅にも帰ってないそうじゃないですか!?娘さん・・物凄く心配してましたよ?」
駿は真剣な眼差しでこずえに語りかけるが、こずえはそんな駿を鼻で笑う。
「ふっ、何よ?そんな事言う為にわざわざこんな所まで押しかけて来た訳?教師ってのも随分暇なのね?あはは」
こずえは嘲笑いながら、再びタバコを口に咥えてライターで火をつける。
「何を笑ってるんですか?あなたは金森梓のたったひとりの母親でしょ?そんな母親が行方知れずで、心配するのは当然でしょ?」
終始半笑いのこずえに駿は若干苛立った様子で強めに言う。
「だったら、アンタが代わりに梓に伝えてよ!私の事はもう忘れろって!私は母親降りたからさ!」
こずえの予想外の言葉に駿は会いた口が塞がらない。
「な、なんて事を・・・」
「だいたい、たかだが教師のアンタに、家庭の事をとやかく言われる筋合いなんて無いわよ?迷惑よ!」
こずえは悪びれる様子もなくカクテルを飲む。
駿は黙ったまま下唇を噛み締めて拳を握る。
「それよりさ、アンタ本当にそれを言う為だけに来たの?」
「ええ・・当然です」
「こんなバーに来たのに?せっかく来たんだから一緒に飲みましょうよ!話す相手が居ないから退屈なのよ!ほら!座ったら?」
こずえは椅子を引いてポンポンと叩いて駿に座るように促す。
そんなこずえの提案を駿は受け入れられず、その場に立ち尽くす。
「所詮アンタにとって梓はただのいち生徒!梓にとってもアンタなんていち教師でしかないのよ?深く考えるだけ時間の無駄じゃない?」
駿が躊躇っていると「皆川さん!その提案を受け入れましょう」とワイヤレスイヤホンから刑事の声が聞こえてくる。
おそらく無線機から会話の一部始終を聞いていたのだろう。
駿がそれでも躊躇っていると、それを察した刑事が「この提案を受け入れ、同調していれば、外に連れ出せる確率が上がります!心苦しいかも知れませんが、ここはどうかお願いします!」と続けた。
駿はそれを聞くと深呼吸をして「そうですね!飲みましょうか!」と精一杯の笑顔を造り、こずえに促された席に腰を下ろす。
「あら?意外とあっさり・・梓の事はもいいいの?もっと食い下がってくるんだとばかり思ってたのに」
こずえは自分の誘いを受け入れた駿に対して、驚いたように言う。
「金森さんの言うように、俺なんてたがが教師ですからね!そもそも他所様の家庭の事情に首突っ込むのは正直面倒だって思ってたんで!そう言ってもらえて助かりましたよ!」
駿は心とは裏腹な言葉を口にしてこずえに同調する。
「あはは!アンタさっきと言ってる事真逆じゃ無いのよ!でも気に入ったわ!そうよ!教師の仕事はもう終わってんだから!今日ぐらいは仕事の事なんて忘れて飲みましょ!」
「はい!飲みましょうか!」
それからしばらく駿とこずえは2人で酒を楽しむ。
「そう言えば、ふと思ったんですけど、こずえさんってオーナーさんと知り合いだったりします?」
駿はいかにも今思いついたような口ぶりでこずえに問いかける。
「え?何でそう思うの?」
「あ、いや、大した事じゃないんですけど、さっきバーテンダーさんがこずえ様って言ってたのが聞こえてきまして・・ただのお客さんに様ってつけるなんて珍しいなと思いまして・・」
「アンタって意外に鋭いのね?」とこずえは驚き「そうよ!今龍彦さんとお付き合いさせてもらってるの」と続けた。
「龍彦さん?」
「梶橋龍彦さんよ!ここのオーナーの名前!」
こずえの口から梶橋の名前が出てきた事で、駿の顔が若干強張る。
それは無線機を介して、外で待機している刑事にも伝わっているようで、一気に緊張感に包まれた。
「その龍彦さんとはどういった出会いだったんですか?」
「おばさんの恋愛なんて聞いてどうすんのよ?」
こずえが不思議そうに駿に尋ねる。
「あ、すいません・・言いたくないなら別にいいんです・・すいません」
「別に言いたくないって事は無いわよ?」こずえらタバコに火をつけると、梶橋との出会いについて語り出す。
「私ね・・梓が中1の時に旦那を病気で無くしたのよ」
「ああ、確か家庭訪問の時に聞きました」
「そう言えばそうだったわね。それからずっと梓と2人だけの生活になったんだけど、まぁ、付き合ってる男が居なかった訳じゃ無いのよ?」
「それってもしかして、借金してまで貢いでたって人ですか?」
「え?何でアンタがそれを知ってんの?まさか梓から聞いたの?」こずえが驚いたように駿の顔を見る。
「あ、いや、それは、その」言ったらマズイ事を言ってしまったと焦る駿。
「まぁ、いいわ・・でも結局その人とは別れる事になっちゃってね・・」
「なんで別れちゃったんです?」
「その人にシングルマザーだってバレちゃったのよ」
こずえは苛立った様子でカクテルを勢いよく飲み干す。
「え?もしかして娘が居る事を黙って付き合ってたんですか?」
駿は目を見開いて驚く。
「じょうがないじゃない?シングルマザーだってだけで、嫌な顔する男なんて、この世の中にごまんと居るんだから」
駿は空いた口が塞がらないと言った様子で、こずえの話を黙って聞く。
「その時思ったのよ・・私ひとりだったらどれだけ楽なんだろうって・・私・・一体何のために働いてたんだろうって・・・」
こずえは疲れた様子で、ため息まじりにタバコの煙を口から吐き出す。
「その時にね・・なんかもう全てが嫌になって、家出しようって思ったの・・梓に仕事に行ってくるって嘘ついてね!そんな時に行くあてもなく街をふらっと歩いてたら、偶然龍彦さんと出会ったのよ!」
こずえは微笑みながら、タバコを灰皿に押し付ける。
「こんなおばさんを1人の女性として扱ってくれてね・・このバーで私をエスコートしてくれたりしてさ!それから直ぐにホテルに行ったの」
「え?出会ったその日にですか!?」
ずっと沈黙していた駿が驚いたように声を張り上げる。
「別に普通じゃ無い?アンタって意外と古臭い考えしてんのね?」
こずえは駿をバカにするように笑い、タバコに火をつける。
「それからはどうされたんです?」
「もういいじゃない!私の事なんて!それよりさ」こずえは意味ありげな笑みを浮かべながら、駿のふとももに手を添える。
「え?ど、どうかされました?」駿はいきなりの事に動揺する。
「私はアンタの事が知りたいわ」
こずえは駿を誘惑するように、ふとももに添えた手を股間へと移動させる。
「あ、いや、それは」
「嫌なの?いいじゃない!私・・アンタの事気に入ったから?特別よ?」
こずえは駿に顔を近づけで、耳元で囁く。
「いや!でもほら!こずえさんには龍彦さんが居るじゃないですか!彼氏が居るのにこんな事しちゃったら怒られちゃいますよ?」
「いいのよ・・これもある意味仕事みたいなもんだからさ!」
「し、仕事?それってどういう」
駿はこずえの言葉の真意を問いただそうとするが、それを遮る良いに、ワイヤレスイヤホンから刑事の焦った声が聞こえてくる。
「皆川さん!梶橋です!梶橋がたった今店の中に!」
刑事の言葉で現場には一気に緊張感が走る。
すると、カランコロンというドアベルの音と共に、店内に1人の男性がは入ってくる。
駿はゆっくりとドアの方に視線を向ける。
そこには、探偵から見せられた写真に写っていた男性、つまり梶橋が居たい。
「梶橋・・龍彦・・こいつが・・・」
駿は生唾を飲み込む。
「あら!龍彦さん!今日はいつもより早いのね?」
こずえは梶橋の姿を確認すると、満面の笑みで近づいて抱きつく。
「いや、前のお客様とのトラブルが長引いてしまいましてね!こずえさんに会いたくて走ってきたんですが、遅くなってしまいました」
梶橋は優しい眼差しでこずえの頭を撫でる。
「っんもう❤︎龍彦さんった❤︎相変わらずうまいんだから❤︎」
こずえはまんざらでもないと言った様子で梶橋の頬にキスをする。
「それよりも今から基盤ですか?」
「そうよ!今から彼とね?ね?」こずえが駿にウインクをする。
「ああ・・あはは」駿はどういう反応をしたら良いのかわからず、笑って誤魔化すしかできなかった。
「そうでしたか!よろしくお願いしますよ?こずえさんには期待していますからね?」
「わかってるわよ!龍彦さんの期待に応えれるように頑張るわ❤︎」
こずえは梶橋に抱きつく。
「あの・・梶橋が言った基盤ってどういう意味です?」駿は周りに聞こえないような小声で無線機の先の刑事に尋ねる。
「おそらく風俗用語でしょう!風俗には円盤と基盤という隠語があるんですよ!」
刑事の話によると円盤は風俗嬢に追加料金を支払って行う本番行為を表す言葉で、基盤は逆に追加料金を支払わずに行う本番行為を表す言葉らしい。
「てことは、やっぱり秘密裏に裏風俗をしてるのは間違いないって事ですか?」
「間違いないでしょうね!それにこの様子では金森こずえも加担していると言っていいかもしれません!」
駿が刑事とやりとりをしていると「何やってんの?さっさと行くわよ?」とこずえが駿を急かす。
「あ、すいません・・直ぐに行きます!」
駿は焦った様子で立ち上がる。
「じゃあ龍彦さん?行ってくるわ❤︎」
「ええ!よろしくお願いします!貴方も楽しんできてくださいね?」
梶橋が駿に微笑みながら語りかける。
「あ、は、はい・・あはは」
駿は笑って誤魔化しながら、こずえと共に外へ出る。