テラーノベル
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天魔に会うという目的は果たせなかったけれど、閉店までバーテンの彼と飲んだ。神威さんは酒豪だったからたくさんお酒をご馳走した。
お会計をお願いした時、料金表を見ずに何杯もカクテルを注文したから、正直言って怖かった。ぼったくりバーじゃありませんように、と願いながら支払額を見ると1万円でお釣りが結構あった。飲んだ量からすれば、格安の金額だ。
「たくさん飲んだのに、この料金でいいのですか?」
「うん。面白い話を聞かせてくれたし。また来てよ。沙耶チャン。初回割も入れておいたからさ」
「はい! 明日も来ます!!」
「ぷっ。明日って。旦那放っておいて大丈夫なの?」
「あ、そうだった……なんとかします! 私だって会社に泊まり込みって言えばいいかと!」
「じゃあ、自宅で浮気されちゃうかもね」
「!!」
目を開いて震えると、神威さんは悪い顔で笑った。「証拠撮れば? 慰謝料ふんだくってやれよ。そんで、ここに飲みに来て」
「そうですね。そうします。じゃあ、ごちそうさまでした」
今日のところはここまでだろう。あの荒れた家に帰ると思うと気が滅入る。帰って今からきちんと片づけて元に戻さなきゃ。はぁ……。
でも、今はまだあそこが私の城だ。居を移すまではあの家で頑張るしかない。
お酒を飲んだせいで目がさえた。せっかくだから、涼二を堕とすシナリオでも考えよう。
帰宅後、脚本の勉強しながら片づけた。明け方までかかったけれど、割れて壊れたフォトフレームやマグカップ類以外は元に戻すことができた。
でも、私の心は壊れてしまった。もう、元には戻せない。
それから普通に出社して、代わり映えのない日常を送った。
違うことといえば、私の心だけ。定時に仕事を終え、その足で再びエンビルを訪れた。
涼二には残業だと言ってある。多分また理咲と逢引するだろう。それは彼女の裏垢を見ればわかる。
神威さんが涼二のことを聞いてくれたから、いろいろ吐き出せてすっきりしていた。こんな状況なのに、誰かに悩みを打ち明けるだけで不思議と心が軽くなる。
昨日はもっといかがわしく見えた雑居ビルも、人通りが多い上にこの辺りが本格的な夜の顔を見せていないせいか、怪しく見えなかった。
一度入って中の様子を知った経験がそう見せているのかもしれない。重い扉を開けてエンビルの中に入ると、昨日と同じくテクノミュージックが重低音で鳴り響いている。
お腹にずんずんとくる重低音。あまり好んで聴かないジャンルの曲だったけれど、意外に心地いい。重低音を響かせているからカッコイイ。だから地下のお店なんだと納得した。
カウンターの奥では神威さんが慣れた手つきでグラスを拭いていた。昨日と同様、お客はひとりもいなかった。暇な店なのかな。
「あ、マジで来た」
神威さんはカウンター越しに私に向かって微笑んでくれた。結構いかつい人だけども、笑うと意外にかわいらしい。
「もちろんです。私、こうと決めたら結構しつこいんですよ」
神威さんはふっと息を吐き出し、やや呆れたような、でも楽しげな表情を浮かべる。
「それは結構。でも、天魔はまだ連絡してこないよ。一応昨日のことは伝えておいたけど」
「そうですか。じゃあ、会えるまでここへ諦めずに通うだけです!」
意気込む私に神威さんは優しく笑いかけてくれた。
「あいつ、かなり気まぐれだからさ。数日じゃ動かないと思うよ。それより、なにか飲んでく?」
「ありがとうございます。昨日のカクテルがおいしかったから、また同じものを」
「はいよ」
彼は慣れた手つきでカクテルを作り始めた。シェイカーの音が心を和ませてくれる。
「沙耶チャン、旦那の浮気って、証拠とか録ってるの?」
神威さんが尋ねてきた。
「ええ。もちろんです」
彼はもうすでに、こちらの内情や天魔を探す理由まで昨日話したから知っている。
そんな神威さんと天魔はビジネスパートナーだと聞いた。近い所にいるのは間違いない。天魔に会うには、もしかしたら神威さんのジャッジが必要なのかもしれない。
とにかくできることは、会えるまでとことんエンビルへ通うしかない。
「旦那も驚くだろうね」
「なにがですか?」
「まさか嫁が浮気に気づいているだけじゃなくて、自分たちが使おうと思っている天魔を使って復讐計画を立ててるなんて知ったら」
「その時はもう手遅れですよ。あいつ、私のことをATM家政婦介護要員と断言していましたからね。自分のせいで子供ができないことまで黙っていたし、ぜったいに許しません!」
「そんな鬼畜は血祭にあげちゃえばいいよ」
神威さんも怖い目をしている。涼二の悪事が許せないんだろう。
「でも、この証拠だと言い逃れされて終わりです。ただの裏垢のスクショですし、僕が書いたんじゃないって言われたら、反撃できません。愛人の裏垢は押さえていますけど、それが彼女のものだと証明するものはありません」
「まあそうだね。裏垢が愛人のものかも、あれじゃわからないもんな」
「はい。なので天魔さんに依頼して、まずは夫と愛人を別れさせて、愛人だけじゃなくて夫自身も破滅させようと思っています。それをドラマのシナリオにして、書いて応募するんです!!」
「ははは。おもしろい発想」
神威さんが屈託のない笑顔を見せてくれた。こんな顔もできるんだ。
コワモテだけど、優しく人の話をちゃんと聞いてくれる。バーテンダーだからかもしれないけれど、まだ知り合って間もない神威さんに、涼二の愚痴を相当言ってしまったんだよね。
サレ妻沙耶が脚本書いて、ドラマシナリオに応募しようと思っていることも。
コメント
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美月ゆめかだよ〜🌸 読了したよ! 第9話「サレ妻の覚悟(1)」、めっちゃエモかった…! 沙耶ちゃん、神威さんにどんどん心開いてるのが可愛い! 「明日も来ます!」って即答するところとか、既に依存し始めててキュン😭💕 あと「家は元に戻せても心は戻せない」の一文、胸に刺さったよ…。 神威さんの「証拠撮れば?慰謝料ふんだくってやれよ」のセリフ、悪い顔からの優しさが混ざってて最高! 天魔にはまだ会えないみたいだけど、通い続ける沙耶ちゃんの執念、応援したくなる…! さぶれさん、今回も胸熱展開ありがとう!続き楽しみにしてるよ〜🔥📚
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