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ターゲットの屋敷は、それはそれは立派なもので、小さな城かと思うほどだった。
流石、有名な武将の末裔だけのことはある。
私は、屋敷の塀に飛び乗ると、そのまま奴の姿を探した。
「そこの者、何をしている。」
足元を見ると、男が2人、薙刀を突きつけながら、こちらを見ていた。
おそらくは護衛をしている、奴の門下生だろう。
私は無言のまま、飛び降りると同時に刀を抜き、護衛のうちの片方を、そのまま斜めに斬り捨てた。
慌ててもう一人の男が、薙刀を構える。
「ふんっ」
奴は力まかせにその薙刀をふるった。
速度は読めないほどではない。しかし問題は、薙刀という武器だった。
薙刀相手の戦闘には慣れていないうえ、武器の長さの違いが、相手の懐を取るのの邪魔になったのだ。私は飛んでくる薙刀を躱しながら、そっと都合のよい足場を探した。
庭園の池にかかる橋。そこにこぎつければ、優位に立てる。
私は戦うふりをしながら、池の方へ相手を誘った。
橋の半ばに差し掛かると、私は勢いよく踏み込み、相手の喉元へ刀を突き出した。慌てて相手は後ろにさがる。その隙に胴を狙って、再び刀をふるう。しかし相手はこれも躱した。だが、ほんの一瞬、体制が崩れたのを、私は見逃さない。
そのまま欄干に飛び乗ると、慌てて下から薙刀を振り上げてきた奴の額めがけて、帯から抜いた金属製の扇を投げつけた。
「うっ…」
相手が一瞬、額を抑えてよろめく。
私は欄干から飛び降りると同時に、奴が再び顔を上げる前に、その首をはねた。
こうして、敵の屋敷に忍び込んだところまでは良かった。しかしあろうことか、奴は既に騒ぎを聞きつけ、私を待ち構えていたのだ。
今回の敵は、表社会でも有名な、一流の剣術家。私はうすうす勘づいていた。体力においても才能においても、私一人では敵わないことを。それでも私の仁侠者としての最後の矜持が、私に卑怯な手を使うのをためらわせたのだ。
仕方がない。やむを得ず私は、真っ向から奴と対決することになった。
奴は汚い笑顔で言う。
「やはりお前が、隻腕の野郎の妹だったか。それにしても、自分から乗り込んでくるとはな。」
「いかにも。」
そういって顔の半分だけで笑って見せるが早いか、私は男の脇腹めがけて、手に持った刀をふるった。
男はとっさに身を躱し、同時に足元を狙って下から刃を振り上げる。
間一髪後ろに跳んだ私だが、脛に浅い傷を受けた。
間違いない。こいつは人斬りの、常習犯だ。おそらく、人を殺せるならば、どんな手でも使ってくるだろう。
「とうっ」
奴は荒々しく白刃を振り上げ、疾風のような速さで私めがけて振り下ろした。
ギィィィン!
不気味な音を立てて、刀が火花を散らす。
私はとっさに飛び上がると、相手より高い位置を取った状態で、今度は真上から袈裟斬りを狙う。
すると奴はそれを簡単に受け止めた。
相手の剛腕には敵わず、私は着地の体制を崩す。
途端に背後から、雷のような刃が襲いかかってくる。
ガキッ!
身を躱しながらとっさに抜いた扇でそれを受け止めると、私は右手の刀で、奴の腹を薙ぎ払った。
しばらくすると、奴の着物は少しずつ、血に染まり始める。
再び刀を両手に握り直し、私は目の前の敵と向かい合った。
互いにいくつもの傷をつけあったものの、決定打とはならず、勝負は長い鍔迫り合いにもつれ込む。
しかしやはりパワーの差だろうか、形成は徐々に、私に不利な方へと傾いてゆく。
先程までにつけられた数々の傷が再び口を開き、鮮やかな血が吹き出す。
やがて奴は、私を屋敷の隅まで追い詰めると、汚い笑みを浮かべて言った。
「フハハハハ…。チャカを持って来ねぇとは、お前は頭が足りなかったな。まあいい、お前も兄と同じようにして、そのままあの世へ送ってやろう。せいぜい地獄での再会を楽しみにするんだな」
そう言って、恐ろしい速さで奴の白刃が、私の左肩めがけて振り下ろされる。
私は剣を右手に持つと、一瞬の隙をついて奴の横側にまわり、そのまま頸動脈めがけて突きつけた。奴の首元から、どす黒い血がほとばしる。
しかし一瞬遅かった。
奴は首元を切られたものの、急所をぎりぎり外したようだ。
反面私は、落雷に打たれたような痛みが左腕全体に走るのを覚え、眼の前の景色が一気に崩れ落ちるのを確認すると、そのまま意識を失った。