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(ブライト……)
ファウダーの魔法がきれて、ブライトがあらわれた。きっと、はぐれた弟を探しに来たんだろう。ブライトのことだし、ファウダーを追跡できる魔法でもかけていたのかも知れない。まあ、そうだったとしたら、それを一時的に無効化したファウダーも凄いって事になるだろうけれど。
(てか、目、目が合ってる!)
アメジストの瞳と目が合って、私はどうしようかと内心焦っていた。悪いことなんてしていないのだけれど、ブライトからしたら、私は不審者というか、ファウダーを誘拐した人に見えしまうのだはないかと。
「あの、失礼ですが」
「は、はい!」
話し掛けられれば、ビクンと身体が反応してしまう。どれだけ、緊張しているんだってバレバレで、恥ずかしい。そんな恥ずかしがっている余裕なんてなくて、ブライトにはさらに不信の目を向けられてしまう。どうにか、この場を切り抜けようと思考するが、いいアイディアが浮かばない。
「そちらにいる子供、僕の弟なんです」
「は、はい。知っています」
「……もしかして、誘拐ですか?」
「ええ、なんでそうなるの!?誘拐なんてするわけないじゃん!」
テンパって、自分でもいっていることが滅茶苦茶だった。弟なんですか、知っている、と答えたら、ブライトの弟だと知ってやはり誘拐をしようとしているのではないかと疑われる。彼の眉間に皺が寄って私は、不味い不味いと、心の中で汗をかく。
(ばーか何やってるのもう!)
自分で自分が情けなかった。いや、いつもこうなったとき私はどうにか自分のことを抑えられたかといわれれば、全然そんなことは出来なくて、寧ろいつもこんな風に焦ってやらかして。
ブライトの目が鋭くなって、私はこれはもうダメだと思った。彼の頭上の好感度を見ると、マイナスの文字が見えて、4だったか、5だったか、それくらいの数値を叩き出している。ピロロンなんて音を耳で拾う余裕もなかった。でも、どうにか言い訳を、と考えて口を開けば、もう誘拐犯としか思えない言葉が飛び出す。
「あ、あの、これは違うんです!」
「違うとは?」
「ええっと。そう、迷子になったっていったので!お兄さんを探してあげようと思っていたんです」
「その子は、いきなりいなくなってしまって。もしかして、ヘウンデウン教……どちらにしても、誘拐という風にしか見えませんが」
「だから、なんで!」
思わず叫んでしまった。こんな風に疑われると思っていなかったのもそうだし、こんな風に睨まれると思っていなかった。いや、出会った当初から、彼には手を叩かれ、散々だったのだが……それにしても、今回は前の世界とはわけが違う。
それなりに、ファウダーへの思いやりはあるようで、弟がいなくなったらすぐにとんでくるいいお兄ちゃんなのだが、だかって、ヘウンデウン教と繋げるのだけはやめて欲しかった。そうだったとしたら、ファウダーが混沌だと分かっていて、連れ去ろうとしているみたいじゃないか。
もう、言い訳をすればするほど怪しい人になりかねなかったので、私は口を閉じた。何を言っても聞いて貰えないだろう。マイナスの好感度の彼に何を言おうが、私の評価が落ちるだけだ。もっと違う出会い方をしていて、ファウダーが、仲を取り持ってくれれば別なのだけど。私の服を引っ張るファウダーは、ブライトを見ているだけで何も言わない。多分、彼の前では、あまり喋らない弟なのだろう。それか若しくは、ブライトとどう喋れば良いのか分からないと。彼も、ブライトの記憶が無い以上、何を言っても無駄だと思っているのかも知れない。
「貴方から、かすかに魔力を感じます。変装魔法をしているのではないですか?」
「へ、変装魔法ってそんな……あ」
「あっ、って何ですか」
「いや、これは、ちがくて……違うの!」
変装魔法、そういえば、変装魔法をしていたなと言うことをいわれて思い出した。すっかり忘れていたけれど、目立たないようにと私はノチェどうようかけてきたのだ。ステラの容姿は目立つし、ステラの顔を今の時点で覚えられたら……って思ってしまったから。
けれど、さすがブライトで、そんなことさえも気づいてしまうのだと。
(てか、魔力を抑えるのアルベドに教えて貰ったのに、また漏れてたってこと!?)
結構意識して、魔力を抑えていたあの頃とは違い、浮かれてそれかほどけてしまったのかも知れない。それか、ステラの魔力が強いから滲み出ていたのかも……どちらにせよ、ブライトの好感度は地におちたといっても過言ではないだろう。
(だって、魔力も持ってて、変装魔法もしてて、ファウダーとこんな暗い路地裏にいるんだよ!?まあ、色々思われても仕方ないよね!)
今すぐにここから逃げ出したかったが、そんなことすれば、また怪しまれる。もう、最悪だった。どうにも出来ない状況で、一歩動けば、ブライトから魔法がとんできそうで、彼の殺気を感じながら、私は震えていた。
「何者なんですか?」
「何者って、何者でも無いし……」
「変装魔法をして、ファウに近付いた理由を教えて下さい。僕は、ファウが何処にいても見つけられるので、貴方が一時的に、それを遮断する魔法をかけたとしか思えないんです」
「それ、私じゃないから!」
「ならば、仲間がいるということですか?これは、計画的犯行だったと」
「だから、勝手に話を進めないでよ」
そういって一歩前に踏み出せば、足下に、スパッと何かがとんできた。水のナイフ。ブライトの魔法だと分かると同時に、ファウダーがいるのに、よくも魔法を放てたなと関心もしてしまう。当たってしまうとか考えなかったのだろうか。ブライトなら、自分なら当てないと自信があるのは確かなんだろうけれど。
「何のつもり?」
「貴方こそ何のつもりですか。そこを動かないで下さい」
と、ブライトの低い声が飛んでくる。よっぽど私のことを警戒しているのだろう。身も知らぬ人間。魔力も変装魔法もかけて。彼の目に私は敵としてうつっている、そう確信してしまった。
ノチェとははぐれてしまったし、彼女に助けを呼ぶことも出来ない。アルベドもこの場にいないし、誰も私のことを説明してくれない。ブライトの好感度を考えると、下手なことはいえないし、今の辞典で何を言っても聞き入れて貰えない。
前の世界では、私のことを警戒しつつも、受け入れてくれて、心の内を明かしてくれた人なのに、今は、ただの敵として……
(ううん、敵じゃないし。分かってくれる……はず)
けれど、彼のアメジストの瞳を見ていると、気が引けてしまう。どうすればいいと、思考しても何かが邪魔してしまう。前の世界ではこうだったから、大丈夫って何処かで思ってしまっているせいだろう。
「なんで、魔法をうったの?」
「何ですか、いきなり」
「貴方がこの子を大切な弟だって言うなら、なんで魔法を打ったの?当たる可能性だってあったわけだし、もし当たったりでもしたら……」
「……」
私がそう聞くと、ブライトは黙ってしまった。そう言えば、と、また思い出したが、彼はファウダーを弟として見れずにいた。でも、弟だっていう認識もあって、混沌であり弟、仇であり家族、その狭間で揺れていた。それが、今の魔法をうつっていうことに繋がる。当たってもいい、けれど、当ててしまったら……だから、それをいわれて、ブライトは何も言えなくなってしまったのではないかと。
ファウダーが私の手を握る。それをみて、ブライトはハッと顔を上げた。前もそうだったけれど、彼に触れたら危ない、触れさせてはいけないと思ったのだろう。手を繋いじゃダメだという前に私も、ファウダーの手を握り返す。もしここで、ファウダーの影響を受けなければ、彼は少しだけファウダーに寄り添うようになるだろうか。分からない。でも、そんな人間を一度もみたことないだろうから、ブライトはさっきとは違う反応をするだろう。
「何故、手を……」
「繋いじゃいけない理由でもあるの?」
「……いえ、でも…………何故」
ブライトは、瞳を揺らし、そして、信じられないというようにその視線を下に落とした。
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