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玄関ホールに父母と共に並んで、アーサシュベルト殿下をお迎えする。

ご一行が入って来られてすぐに、殿下と目が合った。

誰にも気づかれないように優しくわたしに微笑まれ、すぐに凛とした王族の顔に戻られる。

わたしの胸がきゅっとなる。

わたしだけ目が合う。

それがこんなにうれしいだなんて。

でも、恋心はここまで。

先日、冗談のように話した婚約解消の話もしなければ。


挨拶もそこそこに、父が応接室に殿下をご案内しようとしたところで、殿下から思わぬご提案があった。


「明日からは領地にみなさんでお戻りだと伺っています。今日一日、エリアーナ嬢をお借りしても良いでしょうか?」


父母達はこのドタバタしている時に、殿下ご一行の屋敷での対応がなくなることを願ってもいない幸運だと考えたのか、満面の笑みですぐにひとつ返事で快諾すると、殿下とわたしをそれはそれはうれしそうに手をヒラヒラさせて送り出してれくれた。


行き先も全くわからず、とりあえず殿下と一緒の馬車に乗せられ、出発する。


しばらく馬車を走らせてもアーサシュベルト殿下はだんまりで、行き先を教えてくれない。


「あの…殿下、今日はどちらに?」

恐る恐る聞いてみる。

わたしの向かいに座り、何か考え事をしていたのか、外をじっと眺めていた殿下が向き直り、ニッと笑った。


「今日一日だけでもアッシュって呼んで」

いきなりの愛称呼びのお願いに、返事に困って押し黙ってしまう。

別に殿下を愛称で呼ぶのが嫌というわけではないんだけど。

ただ、婚約解消をようやくしてくれると発言した殿下に対して、どう接したらいいのか、わからないというのが本音。


「難しい?」

殿下が寂しそうに聞いてくる。胸がチクリとする。

「…いえ。アッシュ」

「良かった。今日、俺たちは初めてふたりでデートをするって、エリアーナは気づいてた?」

「えっ…」

言われてみれば、そうだ。

婚約してからの3年間、殿下とふたりきりでデートなんてものをしたことがない。

先日のささやかなお礼の会で、初めて殿下と遠出をしたぐらいだ。ダブルデートとしては2回目だったけどね。


「本当ですね。3年間もあったのに初めてのふたりきりでデートですね」

なんだか本当に可笑しい。いまから婚約解消をしようとしているふたりなのに。

思わずクスクスと笑ってしまった。

「可笑しな話だよな。まあ、全て俺が悪いんだけどね」

「いえ、そんなことは…」

慌ててフォローしようとするが、

「エリアーナは優しいね」

そう言うと、また殿下は窓の外に視線を移して黙ってしまった。


無言のまま、時間だけが流れる。

今日の殿下はいつもと違って、時々憂いのある表情を見せるし、少し距離も感じる。


ようやく、目的地に着いたのか馬車が止まった。


「ここからは少し歩くよ」

アッシュが優しくエスコートをしてくれるが、なんだかぎこちない。


ふたりで松林の中を歩く。

お互い黙ったままで、ザクッザクッという砂を踏み締める音だけが響く。

少し歩いていてどこが目的地か、すぐに気づいた。


「アッシュ、この先に海があるんですね」

「うん。気づいた?海を見にきたんだ」


なぜ、殿下がふたりの初デートに海を選んだのか。

まさか。

胸がドクッとする。


「ねぇ、エリアーナ。どうして海はダメなんだ?」

「えっ?」

殿下の思ってもみない発言に心臓がバクバクする。

「それは…」


どうしよう…

言葉が続かない。


沈黙を破るように遠くに波の音が聞こえた。


「ちょっと確認したかったんだ。先日、海は嫌だと強く言っていたのが気になってね」

殿下はささやかなお礼の会を話し合ったあの時のことを覚えていたのね。


殿下の核心に迫る発言に心臓がドクリドクリと早打をし、指先から冷えていくのを感じる。


「…それは」

「エリアーナが言うのが嫌なら言わなくていいよ。別に無理矢理聞き出そうなんて思っていないから、なんとなく気になっただけで」

「……………」


もう覚悟を決めよう。


「悪い夢を見ました」


意を決して、とうとう言った


「舞踏会のあの日、階段から落ちて、気を失った時に悪い夢を見たんです」


それはとても鮮明で夢と思えなかった。

不思議な世界での夢だったけど。

そして、キャロル嬢が現れて正夢となった。


殿下は黙って聞いている。


「いまからわたしが話すことを信じてくださいますか?」


歩みを止めて、殿下が少し離れたところにいた護衛騎士様にここで待っていてと指示を出された。


「ここからはふたりだけだから、安心して」

「ご配慮に感謝します」


再び、わたし達は海に向かってゆっくり歩き始める。

わたしがポツポツと夢の話を話し始める。

そして、最期はいまから行くような場所で迎えたことも。


殿下はずっと黙って聞いていた。

まるで一語一句を聞き逃してはならないかのように。

悪役令嬢を回避しようと足掻いている公爵令嬢は前世を思い出した王太子殿下に溺愛される

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