「う~ん? なにもいないな」
スマホのライトをつけて見まわしたが、幽霊はおろかモヤ1つ見えなかった。
なあんだ。本当に明澄の気のせいか。
あたしは肩を落としてリビングに戻った。
「……あのさ、紅音。わたし嫌な予感がするの。やっぱりやめよう?」
「あ、いいねそれ。嫌な予感するなら幽霊に会えるよ!」
「紅音~~っ」
「まあまあまあまあ、あたし隠れるから10数えたら探しにきてね」
涙目になっている明澄に多少の罪悪感を覚えたけど、今は幽霊への興味が勝(まさ)っている。あたしは明澄にスマホを返し、ひらひらと手を振って隠れに向かった。
ジー……
な、なんかずっと見られてる。まあいいか……。
せめてもの慈悲(じひ)(?)として、リビング内にある棚(たな)のかげに身をひそめる。
「──9──10」
数え終わった明澄が立ち上がる気配を感じる。そして足音は一直線にこちらへやってきた。
「紅音見つけた」
まあずっと見られていたし、すぐ見つかるよね。
明澄が抱えてきたうさっちを受けとり、うさっちに向かって言葉を唱えた。
「次の鬼はあたしだから、次の鬼はあたしだから、次の鬼はあたしだから。……じゃ、明澄隠れてきて。あたしうさっちを浸(つ)けてくるから」
「う、うん。早く来てね……」
あたしは明澄と別れ、ふろ場へ向かう。
そこでふろオケに水を入れて中にうさっちを浸(ひた)した。寒そう。
次に目を閉じて10数える。怖がってるだろうし、なるべく早く数えて明澄を探しにいこう。
「──9──10」
よし、探しにいこう。
と意気ごんだのもつかの間、明澄は秒で見つかった。探すというかもうリビングに入ったら見えていた。
ソファの上で不安そうに身を縮(ちぢ)こまらせている明澄に駆けよる。
「大丈夫?」
「たぶん……。手、繋いでていいかな?」
「うん、いいよ」
それで恐怖が薄れるならいくらでも繋ぐよ。
明澄はあたしの手をギュッと握(にぎ)って立ち上がった。
台所から切れ味の良さそうな包丁を拝借(はいしゃく)し、ふろ場に向かう。
さすがにまだおとなしく、うさっちはふろオケで冷水浴をしていた。
コメント
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改行や文章がとっても綺麗で面白かったです! 続き楽しみにしてます〜!