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昔から、翔太のことが好きだった。
特別な意味で。
俺が今やこんなに頑健で屈強な男になったのも、元はと言えばあの番組へ出演した時に翔太が見に来ていたのだ。その日オフだったメンバーと一緒に、観覧で。
で、翔太は俺に言った。
💙「お疲れ照。次はもっと上いけるとイイな」
俺は無様にも最初の障害で足を滑らせ池にハマって落ちた。
翔太はダセェとも、大丈夫か?とも言わなかった。他に来たメンバーが口々に色々と慰めたり揶揄ったりする中で、翔太の言葉だけが、すとん、と胸に落ちた。
それから俺はトレーニングに励んで、件の番組は俺にとって人生のライフワークになった。
翔太の好きなところは、いつもフラットなところだ。
過剰に優しかったり、反対に底意地悪かったりもしない。いつも淡々としている。
そして、ここぞというタイミングで胸に沁みるようなことを、時に泣きそうになるような言葉を掛けてくる。翔太とはデビューする前からの付き合いだ。ベタベタなんかしない。
売れない頃も、今も、絶妙な距離感で俺と翔太は付き合ってきた。翔太は、みんなが悔しい思いで燻っている時も、辞めたくなるようなぎりぎりの時も共に這いつくばって頑張ったかけがえのない仲間だった。
そんな俺らの風向きが変わったのは、念願のメジャーデビューを前に3人の新メンバーが入った時だった。普段、クールに振る舞う翔太にしては珍しく、新しく入ったメンバーのことを何かと気に掛けていた。そして中でもその中心にいる目黒を特に心配する翔太を見て、俺は何とも言えない気持ちになった。 他でもない嫉妬心が、己の胸に湧いたからだった。
💛「翔太ってさ、目黒と異様に仲良いよね」
今思えば本当につまらないことを言ったと思う。
邪推が生まれ、一方的な思い込みが臨界点を突破し、溢れた気持ちが、その発露を求めて、決壊してしまったのだ。少し意地悪く。そしてかなりカッコ悪く。
翔太はそれを聞くと、すっ、とそれまでの熱が冷めたような表情になって、言った。怖いくらい真剣な顔で。感情の無い冷たい声で。
💙「つまらねぇこと言うんじゃねぇよ」
間にいた後輩の目黒がおろおろとしている。一気にその場の空気は凍り付き、ふっかが心配して、俺たちの様子を見に来たほどだった。
俺はふっかに何でもないと言い、気まずくなり、その日は一番先に仕事場を後にした。
コメント
2件
きたきた💛💙🤭