テラーノベル
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「……本気なのか?」
ライナーは、自らの目を疑った。
目の前にいる男が、なぜここにいるのか理解できない。
港へ一艘の小舟が着いた。
乗っていたのは、ただ一人。
アントンの親衛隊長、バルブスだった。
バルブスは膝をつき、静かに頭を垂れる。
「このバルブス、ライナー王へ降伏いたします。」
「寛容なるご慈悲をもって、お許しください。」
ライナーは言葉を失った。
グラン王国最大軍閥――アントン陣営。
その三本柱の一角が、たった一人、小舟で敵陣へ現れたのである。
ライナーは、スピリタスだけを伴ってバルブスと会うことにした。
天幕の周囲から兵を下がらせ、護衛すら遠ざける。
やがて、武器をすべて預けたバルブスが静かに入ってきた。
「ライナー王。」
バルブスは深く頭を下げる。
「私は今でも、アントン様はグラン最高の将の一人だと思っております。」
その言葉に、ライナーは黙って耳を傾けた。
「だが、おそらく……あなたに敗れる。」
バルブスは顔を上げた。
そこに媚びるような色はない。
ただ、戦場を知る者の冷静な諦めだけがあった。
「お見事でした。」
「おそらく、この戦は剣を交える前から、すでに勝負がついていたのでしょう。」
ライナーの隣に立つスピリタスが、わずかに目を細める。
「私への処分は、すべてお任せいたします。」
「……分かった。」
ライナーはしばらくバルブスを見つめた後、静かに告げた。
「長旅で疲れただろう。まずは休め。」
バルブスは再び頭を下げ、兵に伴われて天幕を退出した。
その背中が見えなくなると、ライナーはスピリタスへ振り返った。
「あれほどの知将が、こうもあっさり負けを認め、降伏するものだろうか。」
「罠だと思われますか。」
「その可能性はないか。」
スピリタスは少し考え、首を横に振った。
「いえ。おそらく罠ではありません。」
「では、なぜだ。」
「先が見えすぎる者の不幸でしょう。」
ライナーは眉をひそめる。
スピリタスは、バルブスが去った入口へ視線を向けた。
「愚かな者なら、最後まで勝利を信じて戦えます。」
「ですが、あの男には見えてしまった。」
「アントンがこれから、どのように追い詰められ、
どのように敗れるのか。そのすべてが。」
その頃、アントン陣営の崩壊は、すでに静かに始まっていた。
マエクスが放った工作員たちは、アントンに従う元老院議員を狙い撃ちにしていた。
ある者には身の安全を約束し、
ある者には財産の保全を示し、
またある者には、アントンが敗れた後に待つ処刑の恐怖を吹き込んだ。
効果はたちまち現れた。
元老院議員たちは次々と陣営を離れ、ライナーへの帰順を申し出た。
一人が逃げれば、隣にいた者も不安になる。
二人が逃げれば、残った者たちは自分だけが取り残されることを恐れる。
離反は離反を呼び、やがて誰にも止められない流れとなっていった。
去っていくのは、グラン人だけではなかった。
イージプから従軍していた王族や貴族たちもまた、密かに戦場を離れ始める。
海路で帰れる者は船を手配し、
陸路を使える者は、わずかな供だけを連れて南へ逃れた。
彼らにとって、これはグランの内戦である。
敗北の見え始めた戦へ、祖国も財産も命も捧げる理由などなかった。
そして、アグリによって南方の港を奪われたことで、補給物資も途絶えた。
兵糧は減り、
馬の飼料は尽き、
兵たちへ支払う金さえ、いつまで持つか分からない。
カニデス率いる陸軍との連携も崩れ、もはや陸上での決戦は望めなかった。
アントンに残された道は、二つしかない。
全艦隊を率いて、ライナー軍との海上決戦に挑むか。
それとも――。
海上から逃亡するか。
グラン最高の将と呼ばれた男は今、自らが築いた大軍の中で、
次第に逃げ道を失いつつあった。
南方戦線では、ついにアグリが最後の港湾都市コルントを陥落させた。
これにより、アントン軍へ続く補給路はすべて遮断される。
奪回を断念したカニデスは、残存兵力をまとめてアンゴラ湾へ後退した。
一方、アグリもまた南方制圧を終え、ライナー本隊との合流へ向かう。
その途上、各地で小規模な戦闘が繰り返されたが、戦局を覆すには至らなかった。
やがて両軍がアンゴラ湾へ集結する。
ライナー軍は湾の出口を完全に押さえ、海上封鎖を完成させた。
アントン軍は、ついに海にも陸にも退路を失った。
バルブスの投降を知ると、アントンは静かに目を閉じた。
「……あれの荷物を届けてやれ。」
「ジュリアスならそうする」
悪化していく状況のもと
アントンはなんとか局面打開の道を探っていた
「本当か、それは。」
「はい。額も間違いありません。」
「ライナー王の借財は百億ディナールを超えています。」
「この冬を越えられぬ可能性も……。」
アントンは思わず立ち上がった。
「……ならば、勝てる。」
数日ぶりに、その瞳へ光が戻る。
「諸将を集めよ。」
シャチトル、イモホテップ、カニデス、ガイロ。
「すぐに軍議を開く。」
伝令が走り去ると、アントンは誰に言うでもなくつぶやいた。
「私は、まだ負けてはおらぬ。」
コメント
1件
おおお…第40話、めっちゃ熱かった🔥 バルブスの投降、静かで重かったな。スピリタスの「先が見えすぎる者の不幸」って台詞、ガチで刺さったわ。わかってて負けを受け入れる判断力、渋すぎる。 アントンが借財の情報で「まだ負けておらぬ」と目を輝かせるところ、この絶望感の中での逆転への執念、たまらん…! 戦略の積み重ねでジワジワ追い詰めるライナー側と、それでも諦めないアントン、両方に魅力がある構成、めちゃくちゃ好みだわ🔥
#シェイプシフター
柊遊馬
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#戦国時代
眠狂四郎
284
#戦国時代
眠狂四郎
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#軍師
眠狂四郎
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