私の名前によく似た花がある。
その花の花言葉は私とは全く関係無いものだ。
私はあの子を、藤花ちゃんを傷つけることしかできないのだろうか。
ついにその日がきた。
7月を迎えた今日は清々しい夏の青空だ。
聖人なんて存在しないと証明する日にきっとなるはずだ。なるはずなんだ。
胸が重苦しくて痛い。醜い感情は深くなるのに、あの子の眩しさは変わらない。
早く。早く。終わらそう。
こんな思い。
マネージャーの仕事で二人きりな今、やることはたった一つ。たった一つなんだ。
後は楽になるはずだから。
なのに口から言葉が出ない。何一つとして。
横目にあの子を見てみる。
やっぱり藤花ちゃんは眩しかった。その眩しさに失明してしまいそうだった。
「どうしたの葵ちゃん?」
「えっ?」
「ずっと、見てるからどうしたのかなって」
「なっ、何でもないよ!」
危ない。気づいてたんだね。
流石に見すぎてしまったようだった。
「葵ちゃん、一回休もう」
「うん」
そう言われるがままに私は休み始めた。
「…葵ちゃんってさ、もしかして疲れてる?」
藤花ちゃんが聞いてきた。突然言うので私は呆気にとられてしまった。
「そんな事ないよ!私めっちゃ元気!」
本当に?そんな声が聞こえた。
本当だ。私は本当に元気だ。
心配するなんて余計なお世話なんだ。
「私が勝手に思った事なんだけどね」
二人きりだから話すね。そう言いながら藤花ちゃんは話をどんどん進めていく。
…これ以上はやめてよ。
「葵ちゃんって、いつも無理してるように私には見えてるんだ。辛そうに見えるんだ。」
ねぇ、やめてよ。
「こんな私で良いならさ。いつでも話聞いたり、一緒に考えたりするから」
もうやめてよ!
「私のこと頼って?」
本当に…やめてよ…
心が崩されていく。崩壊は止まらずにボロボロと砕け落ちてバラバラに散っていく。
私、今どんな顔してる?
「…大丈夫だよ。それに、友達とかじゃないでしょ?だから相談はやめとく」
必死に言い訳する。
「なら、今から友達になろう!そしたら遠慮せずに話せるよ!」
私の嘘が傷ついていく。
起きた事はただ一つ。私がいないと証明しようとした聖人に今、手を差し伸べられている。
その手を散々嫌ったはずなのに、向けられるとその手を否定できない。
言葉の暖かさか、罪悪感か。私の目は涙で溢れた。全く止まらなくて恥ずかしくなる。
こんな姿は誰にも見せたこと無かった。見せない為にたくさん堪えてきたのだ。
「葵ちゃん…」
悲しそうな声で、あの子は呟くように言う。
そして藤花ちゃんは私を抱きしめた。とても優しく。暖かく。じんわりと。
ごめん。
ごめん。ごめん。
ごめんなさい。
私の頭には同じ言葉が浮かんでいっぱいになる。
「ごめん…」
「大丈夫だよ、葵ちゃん」
そう言うと藤花ちゃんは私に何か差し出した。
「これ、ゼラニウム…?」
「うん、そうだよ。友達になった証 」
造花だけどね。と付け足しながら言った藤花ちゃんは静かに微笑んでいた。
部活が終わった後、私は逃げるように帰路を急いでいた。
手には藤花ちゃんから貰ったゼラニウムの造花を握っている。
ゼラニウムの和名は天竺葵といって、私の名前と物凄く似ていた。
花言葉は何だっただろうか。昔見た図鑑の記憶を探って考えるみる。確か花言葉は…
真の友情、だったはずだ。
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