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「彼女の様子はどうかね.」
「特に怪しい動きはしていません.引き続き監視を行います.」
「よろしく頼む.」
月島は鶴見中尉にいつもの報告を終え,昼食を持って彼女の部屋へ向かう.
にわかにも信じがたい,未来からやってきたという彼女.
「北海道観光してて,ホテルを一歩出たら景色が変わってて….」
話を聞くに言葉に嘘はない.やけに軍について詳しいが,どうやら未来の日本で我々は漫画という物語の一部に描かれているらしい.
「(一時保護とは言え,すっかりあの娘がいる生活が普通になってしまった….)」
ドアをノックしようとすると歌声が.それはロシア語でも日本語でもなく.
「お前やはりアメリカのスパイだったか!!」
勢いよくドアを開け言い放つ.
「違っ!!普通に歌ってただけで…!!」
「ちょっとこっち来い!!」
彼女の手を強引に取って部屋を出る.向かった先はもちろん.
「鶴見中尉!!この娘,アメリカのスパイです!!今すぐにでも拷問して正体を吐かすべきです!!」
「落ち着け月島軍曹.何を根拠に彼女がスパイだと??」
「英語で歌を,歌ってたんです.かなり高度な教育を受けたに違いありません.」
「そうなのかね??」
鶴見は彼女に話を振る.
「私はスパイじゃありません!!未来の日本では,義務教育の過程で英語を学びます.私は外国人のようには喋れませんが,歌は歌えます.耳で覚えたり歌詞を見れば誰でも歌えるようになりますから….」
「では,歌ってはくれまいか.」
「今ですか!?」
「そうとも.君の英語がどれ程のものか見極めたい.」
「えぇ!?もう…笑わないでくださいね.」
疑われるのも嫌だしと,彼女は腹を括り咳払いして歌う.
Welcome to your life
There’s no turning back
Even while we sleep
We will find you
Acting on your best behaviour
Turn your back on mother nature
Everybody wants to rule the world
「とりあえず1番だけ….」
「いやはや,発音がめちゃくちゃでさっぱり分からん.これではスパイは務まらんな.」
「(すごくはっきりダメ出しされた!!)」
「自分はそうは思いません!!」
「万が一があっても,我々の監視網から逃げられまい.いざとなれば二重スパイとして命を張ってくれたらそれで良い.」
「い,嫌ですからね二重スパイなんて.戦争も経験してない,人を殺したこともない私に勤まりません!!」
「なら今までどおり,保護観察のもと大人しく頼むよ.これでどうかね??月島軍曹.」
「承知,しました….」
「彼女を部屋まで送りなさい.」
月島は姿勢を正して頭を下げて.
「戻るぞ.」
と彼女に耳打ちし、彼女も鶴見中尉に会釈して月島の後を追った.
「我々の目を欺くようなことがあれば容赦しないからな.」
声色低く眼光鋭く,月島は彼女にそういい放ち部屋を後にした.
「また警戒心強くさせちゃった….」
新月でろくに光も差さない部屋のベッドの上で彼女は天井を見つめる.
本当は彼らがどうなるか知っている.だからこそ.
「(私には何もできない.しちゃいけないんだ.だから今は大人しくしてるのよ.)」
There’s a room where the light won’t find you
Holding hands while the walls come tumbling down
When they do I’ll be right behind you
So glad we’ve almost made it
So sad they had to fade it
Everybody wants to rule the world
思わず口ずさんだ歌,どうしても彼らの行く末を謳ってるようにしか聞こえなくて虚しくなる.
「さすがの月島さんも今は寝てるよね….」
また月島との距離を縮め直さねばと思いながら目を閉じる彼女.それを知ってか,部屋の外で一抹を聞いていた誰かはその場を静かに去った.
しばらくして.
「私も樺太に…!?」
「そうだ.ここにいても一向に戻れる気配がないと分かったからな.もしかしたら我々の目指すところに君が帰れる方法もあるんじゃないかと思ってね.」
「あー,なるほど….」
呼び出されたと思えば,鶴見中尉から樺太出向のお達し.ちらりと横に立つ月島を見るが,彼はこちらを見向きもしない.
「過酷な旅になると思うが,行くかね??」
「…行きます.一刻も早く元の世界に戻りたいですから.」
「必要なものがあれば言ってくれ,こちらで用意しよう.」
「はい,ありがとうございます.」
「月島軍曹,彼女も一緒に頼んだよ.」
返事してやっとこっちを見てくれたと思ったら.
「(冷たすぎる視線だ….)」
内心肩を落として,部屋を出る月島に着いていった.