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テラーノベルの小説コンテスト 第4回テノコン 2025年1月10日〜3月31日まで
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やがて、静寂。


静かな寝息だけが聞こえる世界。


どれくらい時間が経っただろうか。


ドン。


パラパラ、ドン。


ヒュー……ドドン。


聞き慣れない大きな音に、有夏はゴシゴシ目をこすった。


「なに……?」


随分長い間寝てしまったらしい。

部屋の中は真っ暗だ。


「さむ……」


エアコンを一旦止める。


人の活動がない為か、室内が異様に冷えてしまっていた。


テレビの主電源とポットの保温マークに灯る明かりが、やけに眩しく眼球を刺す。


「幾ヶ瀬ぇ……?」


言ってから気付く。

奴は今日は帰ってこないのだったと。


有夏はベッドに起き上がった。


「ゲームのつづき…いや、晩ごはん……先に電気」


リモコンに手を伸ばしかけた時だ。


ドン。


先程からの轟音と共に室内がカラフルな光に照らされた。


有夏の白い顔を赤や黄、オレンジの透明な光が順番に染めては消える。


異世界にでも放り込まれたのかと、呆けた表情の有夏。


続けて響く轟音に、ようやく思い至る。


花火だ。


ベランダの扉を開け、バルコニーへ。

有夏は柵から身を乗り出した。


「はは……小っさ」


隣りのマンションと向こうのビルの隙間から、大輪の花の一部だけが見える。


そういえば今日だったか。


近くの河原で毎年行われている花火大会を、有夏は一度も見に行ったことがない。


大抵は幾ヶ瀬が仕事だし、たまたま休日にかち合って彼が行きたいと誘ってきても、熱いのが苦手な有夏はのらりくらりと躱していたのだ。


──少しだけ見えるよ。一緒に見ようよ、有夏。


こうやってバルコニーからビルの隙間を覗いて、はしゃいでいた幾ヶ瀬の様子を思い出す。


──乙女かよ。


その時はゴロゴロしながらゲームをしていたっけ。

生返事をしたあげく悪態をついた記憶がある。


その時の幾ヶ瀬と同じ体勢で花火を見ていることに気付いて、有夏は苦笑した。


「なにが一緒に見ようよだよ。ヤツは有夏の彼女かっての」


そのまま花火が終わるまで1時間程あったろうか。


有夏はバルコニーを離れなかった。


最後にパーティとばかりに何発も同時に打ち上げて、夜空は華やかに染まる。


その色が静かに闇の中に落ちていっても、彼はしばらくそこを動かない。


黒い空に光を探すかのように、じっと佇んでいる。


やがて、暗かったビルの窓にひとつひとつ白い明かりが灯りはじめた。


よろよろと部屋に戻り、しかし窓を閉める気にはならない。


夏の夜には珍しく、心地良い風が入ってくる。


花火の残り香をそこに見付けて、有夏は窓辺に座りこんだ。


灯かりをつけて、夕食をとって、それからゲームの続きをしよう──そう思うのに、電気をつける気にもならない。


腹のあたりがスウッと冷えるのを感じる。


幾ヶ瀬は今頃何をしているのだろうかと考えた時、有夏は思い至った。

何か大事なことを忘れている気がすると。


「何だっけ……」


昨日の夜から幾ヶ瀬がしつこく何事かを言っていたような。


彼の言うことは大概聞き流すクセがついているので、いつものように生返事をしたと思う。


「まぁいっか」


風が心地良い。


薄闇に包まれ、1人のベッドで有夏は目を閉じる。

静かに地面に引き込まれる感覚。


寝るならベッドに行かなきゃ。

それよりお腹がすいてきた……そんな思いもすぐに眠りの中へ消えてしまう。


幾ヶ瀬が帰ってくるのは明日だ。

顔を見たらこう言ってやろうか。


──有夏も幾ヶ瀬のことが好きだよ、と。

【BL】隣りの2人がイチャついている!

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