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ある日、俺は小説のサイン会に来ていた。
その小説を書いたのは、若手ながらも様々な賞を受賞している人だった。
“北斗”という名前と、美しい猫の表紙が魅力的だと思ってなんとなく購入した小説が期待以上に良かったため、今日足を運んだのだ。
今日は朝から調子が悪く、家を出る時間が遅くなってしまった為、俺が並んでいる所は列の最後。
緊張なのか発作なのか、心臓がバクバクしていた。
薬を飲んでおこうと思って気づく、つい前にもう飲んでしまっていること。
「くそ…もつかなぁ」
不安は募るばかりだった。
〈次の方、お願いします。〉
その言葉を聞いて、俺はこの小説の作者と向きあった。
『読んで頂いてありがとうございます!』
北斗という名の作者は、整った顔の青年だった。
今までどんな人なのか知らなかったのもあり、少し驚いた。
「あの…めっちゃ本面白かったです!一つ一つの言葉が綺麗で。俺、猫好きで、余計に良かったです!」
『ふふっ嬉しいです。是非他の本も読んでみて下さい。 』
「はい!絶対読みます。」
『猫がお好きなら…あの本がいいかな?…』
そんな何気ない会話をしていると、もう慣れつつもある痛みが胸を走った。
「って…はぁっ」
俺は思わず胸を押さえてしゃがみ込む。
『え…どうした…大丈夫ですか!』
北斗さんは急いで俺の元に来て、心配してくれた。
「はぁ…はぁっ痛…」
『痛い?心臓?』
「薬…はぁっヘルプマーク見て…」
北斗さんは焦りながらヘルプマークを見て、俺のカバンから薬を取り出した。
『はい。薬です!』
「あ…ありがと…」
薬を飲んで深呼吸をすると、自然と痛みは治った。
「ふぅ…すいませんでした。ご心配おかけして…」
『全然いいですけど…大丈夫なんですか?』
「ちょっと心臓が悪くて。」
『あ…そうなんだ…。ちょっと奥で休みます?』
「いいんですか?」
普段なら絶対に遠慮するが、今日は体が言うことを聞かない。
「ほんとすいません。あ…俺、慎太郎って言います。森本慎太郎。」
『慎太郎さん。いい名前ですね。 遠慮なさらず…ゆっくり休んでください。』
「ありがとうございます。最近は、 この心臓のせいで、したいことが何にもできなくて。」
『一緒にするの申し訳ないですけど、俺も…
体がすっごい弱くて、ちょっと運動したりしただけですぐ熱出ちゃって、学校行きにくくなってた時に小説書くの始めたんですよね。』
「そうなんですね…そのまま職業にされたんですね。」
『親にはとても反対されました。安定しない職業ですからね。』
「でも、めっちゃ素敵です。尊敬します!俺は夢だった教師になったけど、もう…辞めちゃったんで。」
『辛かったですよね…大丈夫。俺が慎太郎さんの支えになります。』
北斗さんからの突然のエールに、内心驚きながらも俺は微笑んだ。
「嬉しいです。俺も、北斗さんの小説読んで応援しますんで!」
『ありがとうございます。猫に関する本、また教えますね。』
北斗さんの人柄の良さに触れることができ、ほんの少しだけ病気に感謝した。