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【一冊の小説】
「あと4・5年もすれば、私を殺して首領の椅子に座っているだろうね」
此の言葉は、ポートマフィア首領__森鴎外が発した言葉である。
もしこの言葉が本当になったら、“彼”はどうするのだろうか?
此れは、その瞬間が描かれた物語___
一冊の小説である。
***
一人の青年が、赤みがかった茶髪の男に近付く。
「織田作!」
青年が男の名を呼ぶ。織田作之助は血を流し、死の間際にいた。
「聞け、!」
云い聞かせるように青年の蓬髪と右目を隠す包帯を掴み、作之助は云った。
「お前は云ったな、暴力と流血の世界にいれば、生きる理由が見つかるかもしれないと」
「あぁ…云った、」
「見つからないよ」
「っ!」
作之助は続ける。
「自分でも判ってるはずだ、人を救う側だろうと、殺す側だろうと、お前の予測を超えるものは現れない」
「……、」
青年は作之助の言葉を静かに聞いていた。
「お前の孤独を埋めるものはこの世のどこにもない」
作之助は淡々と言葉を放つ。
「お前は永遠に闇の中をさまよう」
青年は少し眉をひそめ、震えながら作之助に問う。
「織田作、私はどうすれば____っ!」
青年はある事に気付いた。
先刻まで自分の髪に触れていた友の手が、床についているのだ。
“あの時とは違って、包帯も取れていない”
「織田作、、?」
青年は男の名を呼ぶが返事はなく、呼吸の音すら聞こえない。
「っ! 織田作、!!」
青年は震えながら友の血がついた手のひらを見て、悔しそうに握りしめる。
「頼む、教えてくれ……私には判らないのだ」
絞り出したような声で青年は云った。
「私は……どうすればいい、?」
青年、太宰治の言葉に友の返事はなかった。
***
一人の青年が、静かに薄暗い廊下を歩いていた。
青年は黒い長外套を羽織っており、右目が包帯で隠れていて、表情が読みづらい。
彼の名は、太宰治。ポートマフィアの幹部である。
彼が向かっている先は___首領がいる部屋だった。
「ねぇ、」
太宰が扉の前にそびえ立つ、銃を持った二人の男に話しかける。
男達は何も云わずに、太宰に銃を向けた。
「其処を通してほしいのだけど…」
太宰は男達に云う。
「………、」
それを聞いた男達は、冷や汗をかいていた。
太宰は幹部である為、目の前に立って銃口を向けている男達とは、格が違うのである。
「申し訳ありませんが、貴方を通すなと首領からの命令が…」
「ヘェ…そう、」
男達が理由を話すと、太宰は酷く冷たい声で返事をした。
一方、その様子を監視カメラで見ていた男がいた。
「悪いね、太宰君」
華やかな椅子に座りながら、男は青年の名を呼ぶ。
椅子の側には、赤いドレスを着た金髪の幼女が立っていた。
「簡単に、この座を譲る訳にはいかないのだよ」
男の名は森鴎外。彼こそがポートマフィアの首領なのである。
「別にいいでしょ? 通してよ」
太宰はそう云うが、男達は無言で銃口を向き直す。其の時、ガチャッと金属音がなった。
「君達がその気なら仕方ないね、」
太宰はため息混じりにそう云うと、長外套で隠れていた腕を目の前に出す。
彼の手には銃が握られていた。
「!!」
男達が焦る。然し、もう遅く…
バンバンッ
大きな音が響くと、目の前に立っていた男達が倒れる。その側には血の海ができていた。
太宰は顔色一つ変えずに、扉の先へと進んで行った。