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いきなり入ってきた騎士に驚きつつも、私はウンターヴェルト男爵という人物に見覚えも聞き覚えもなく、一体誰なのか分からなかった。
すると、私の後ろにいたリースが私の肩に手を置き、代わりに答えてくれた。
「……昨晩お前の足下に転がってた奴だ」
「へぇ……って、ええ!? えっと、あの……」
リースの返答に一瞬納得しかけたが、私は直ぐに頭を抱えそうになった。
足下に転がっていたと彼は軽く言ったのだが、あの血を流して倒れていた……死んでいたかも知れない人物の事を言っているのだと理解すると途端に私は頭が痛くなってきた。
またあの光景が脳裏に浮かぶ。
いけない、いけない。と首を横に振り私は口元を抑えた。
「それで、貴様らは起きたばかりの聖女に尋問しにきた訳か」
リースは立ち上がり、鋭い視線を騎士達に向けた。
普段の優しいリースとは違い、今の彼は威圧的でとても怖い。まるで別人のような雰囲気だった。こっちが、本来のリースの姿なのだろうが、中身が元彼のせいでそのことをすっかり忘れていた。
騎士達は、どよめきリースの機嫌を損ねないように気をつけている様子だったが、これじゃあ拉致があかないと思い私は口を開いた。
全く身に覚えのないことなのだが……そもそも、何を聞きにここに来たのか分からないままなのだが。
もしかして、私がやったと疑われているのだろうか。だったら尚更身の潔白を証明しなければ……
(そういえば、あれって……メインストーリーだったのかな……)
「事情徴収だった……その、全然いいですよ。まだちょっと、体調が回復していないのでこのままで良ければ」
私が答えると、リースは私の腕を掴み首を横に振った。
「急ぎでなければ、明日でいいだろ。どうせ、階級の低い貴族だ。一人二人死んだところで騒ぐ必要ないだろう」
私はリースの言葉にぎょっと目をむいた。
いやいや、日本でそんな人が一人二人死んだらもう事件なのよそれは。
しかし、それを言って通じるのはリースかリュシオルぐらいである。
騎士達は、ですが……と、困惑しており気の毒だった。彼らも彼らの仕事で仕方なくここに来ているのだろうから。そう考えていると、彼らの仕事を邪魔し私が心配だからと仕事を放り出してきているリースはどうなんだろうと、少し思った。
「それに、屋敷に不法侵入という罪をウンターヴェルト男爵は犯しているんだ。死んでなかったとしたら、それこそ尋問すべきは男爵だろ」
「……殿下、ウンターヴェルト男爵は既に亡くなっているのです。ですから、第一目撃者である聖女様に事情聴取を」
なかなか納得しない、リースを何とか騎士達は説得しようとしていたが、リースは聞く耳を持たなかった。
それに、リースは既に事情聴取を受けているだろうし……いや、皇太子だから方法とかは違うだろうけど第一目撃者は私であるというのに。
「あの、私はほんと大丈夫なので……」
私は騎士達にそう言うと、騎士達は安堵の表情を浮べた。
しかし、その隣で気にくわないといった様子で彼らを睨み付けているリースがいる。ルーメンさんがいてくれれば、きっと彼を強制連行してくれるだろうに……
そんな都合良く、ルーメンさんが来る筈も無く私は一人でこの場をおさめるしか無かった。
ならば、この一言を言ってリースには納得、騎士にも素早く情報を伝え出て行って貰うしかなかった。
「私、そのウンターヴェルト男爵をころ、殺害した……暗殺者、見ました」
私はそう言い放つと、リースは驚いたように目を見開き、騎士達はざわついた。
そうだ、これで良い。
これ以上リースの機嫌が直るまで待っていても、時間の無駄でしかない。それに、彼は譲らないだろうし。
(勢いで言っちゃったは良いものの、どうしよう! だって、その犯人攻略キャラの一人な訳だし、もしアルベドが捕まって処刑とかされちゃったら……! ああ、でも攻略しなければ関係ないか……)
と、ぐるぐる回る思考。
私は一度、咳払いをし取りあえず伝えられる情報だけ伝えることにした。あまり、言い過ぎるとアルベドが捕まる可能性があるからだ。
別に彼が捕まったところで私にメリットもデメリットもないのだが、一応アルベドは攻略キャラだからという理由で……いや、そもそも彼に口封じされているんだった。
脳裏に浮かんだ、紅蓮の髪。
『俺はいつでもお前を監視してるからな』
その一言は、私を呪いのように蝕みまた震えさせた。
監視……なんて、きっと私を脅すために言った言葉だろうがどうも引っかかって仕方がない。
それは、取りあえず置いておいて私は騎士達に説明することにした。
「……その暗殺者は白と黒の変わった仮面を付けていて顔を隠していました。服は、全身黒で……低い男の人の声でした」
「髪色や、目は?」
「え、えっと……」
「暗殺者とはそういう物だろ……すぐ、割り出せる物じゃない」
質問に答えようとすると、突然リースが口を挟んだ。
私は、リースをちらりと見ると彼はじっとこちらを見ていた。まるで、何かを探るような視線を向けてくるものだから私は戸惑った。まさか、私が犯人を庇っていることに気がついたのだろうか。
私は慌てて、口を開いた。彼の探るような瞳が怖かったのだ。
髪色も目の色も知っているに決まっている。だって、あの暗殺者はアルベド、この世界のこのゲームの攻略キャラの一人なのだから。
飽きるほど見てきたビジュアル。しかし、実際見た彼はとても妖美であの紅蓮の髪には惹かれてしまった。
「ゴホンっ……すみません、暗くてよく見えなかったです……あ、でも髪の毛は長かったような……」
そう告げて、私は目の前の真っ白な布団をギュッと握った。
騎士達は、そんな私の様子を見て哀れに思ったのかありがとうございました。とお礼を言いそそくさと部屋を出て行った。