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一時間後、王宮での仕事を終わらせたルウィルクは、帰るため廊下を歩いていた。
と、向かいから面会が終わったらしい王太子が歩いてくる。
(げっ)
ルウィルクは王太子に話しかけられないよう、俯いて歩いた。
王太子は魔搭の任務で何回か同行したことがあるため、ルウィルクとは一応面識があり、ルウィルクが副首長だということも知っている。
ちょうどすれ違いしそうになったとき、王太子はルウィルクに気づいた。
「おや、君は……」
(……見つかったか)
ルウィルクは心の中で舌打ちをしながら、王太子に向かって、左足を引き、右手を左胸に当てて、一礼した。
「王太子殿下におきましては、ご機嫌麗しく」
「魔搭の副首長じゃないか。久しぶりだなぁ」
その軽い言い方にも苛立ちを覚えたルウィルクは、低い声で「……はい」と言った。
「ちょうどさっきまで新しいフィアディル公爵とその妹の公爵令嬢と茶会をしてたんだ」
「……そうでしたか」
王太子は、ルウィルクの不機嫌にも気づく様子はなく、言葉を続けた。
「特に公爵令嬢が美しい少女でね。公爵も顔は整っていたんだが、令嬢は王国一と言っても過言ではないくらい美しくかわいらしかったんだ。将来はもっと美しくなるだろうなぁ」
(だから将来は娶ろうと思っている、なんて言わないだろうな?)
ルウィルクは内心ハラハラしていた。
「君、俺たちの茶会を覗いてただろう?」
「っ!」
ルウィルクは目を見開いた。
まさか気づかれていたとは。
王太子の目が鋭くなる。
「彼女も公爵も父も君には気づいていなかったようだから安心したまえ」
その言葉に、ルウィルクは安堵した。
「しかし彼女、勘は良さそうなのに、恋愛には疎いんだね。不思議な子だ」
ルウィルクは安心しきっていたが、背筋に緊張が走る。
そんなルウィルクの反応を面白がったのか、王太子は少し笑った。
「まあ、彼女に君の想いを告げる気はないよ。彼女を娶るつもりもない」
王太子は少し進んで、ルウィルクの肩をぽんぽんと叩いた。
「ま、頑張れ」
そのまま王太子は去っていった。
ルウィルクは呆然と立ちすくんでいたが、こうしている場合ではないと我に返り、歩き始めた。
と、しばらく歩いていると、聞き覚えのある可憐な声が後ろからした。
「まあ、ルウィルク様?」
振り向くと、やはりリリアーナだった。
彼女はその美しい顔に笑みをたたえ、ルウィルクに歩み寄る。
「なぜここに?」
「王宮に仕事があったんだ」
「仕事?何のことでしょう?」
彼女は愛らしく小首を傾げた。
彼女のそんな些細な仕草にも、ルウィルクはどきっとする。
(ああそうか。まだ話していなかったか)
ルウィルクは自分が魔搭の副首長をしていることをリリアーナに初めて話した。
案の定、彼女は驚き、「すごいですわ!」と感激したように言った。
そしてそのまま二人は一緒に帰ったのだった。