テラーノベル
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あれからは心はぐちゃぐちゃだった。
私はどうやって生きていけばいいのか分からなくなった。
私が死ぬべきか。
それとも。
……アキラが好きと言った女。
コヨミを殺すべきか。
もう、その二択しか思いつかないほど狂気に苦しめられていたのだ。
何度も揺れ動き、葛藤を繰り返した。
「ああ、私は一体誰なの神様!!」
枕に顔を埋めて悲痛な声を漏らす。
哀れな少女。
いくらか寝返りを打って答えを待っても、返ってくるのは自身の嗚咽のみ。
究極の詰問に答えられるのは、自分自身しかいなかった。
答えは自分で出すしかない。
流れる涙と汗を拭って、その審判を下すために机の上に置いてあるコップを手に取る。
単純な化学式を喉に通す。
いくらか落ち着いてくる。
思考も整合性を伴ってくる。
ため息をついて、私は改めて考えた。
アキラはドクターバックスで、私の前で文芸部副部長だという女……コヨミのことを好意的に見ているという旨の発言をした。
はっきり、言ったわけではない。
だが、「好きなの?」という質問に「まあ、ちょっとね」と照れくさそうに言ったのだ。
「好き」という気持ちに間違いはないだろう。
そこで私はかなり困惑し、取り乱し、そうこうするうちに私が店を飛び出した。
動物園に行く予定だったのに。
アキラは私を追って行ったが、それ以来はもう会っていない。
しばらく引きこもって、ずっと迷い続けた。
しかし冷静になると、もう私はいらなくなっているのだ。
なぜならアキラは私を欲していないのだから。
ならば、私を葬って生きていくしかないだろう。
私という存在を押し殺して、アキラが素直に生きていくことを見届けていこう。
「それがアキラにとっての幸せなんだもの」
そう決意し、これから先のことを考えてみる。
アキラの様子はあれから知らないが、大学には行ってみることにする。
私はあんなことが起こった直後、とてもじゃないが冷静でいられなかったのだ。
だから、アキラには休むと言っておいた。
適当に体調不良だと理由をつけて。
しかし、サプライズで会いに行こう。
きっと、アキラは喜んでくれる。
サプライズは人の心を動かすものなんだし、成功するに違いない。
私は私自身を捨てたが、肉体はそこにある。
以前までの傲慢な私ではなく、生まれ変わった私のことを愛してくれるはず。
さて、そうなれば会うタイミングが重要だ。
学科が違うので、講義では会わない。
探しだして声をかけるのは、流石にやりすぎ?
だったら。
文芸サークルに行こう。
恐らく、アキラは明日も文芸サークルに行くだろう。
他の人に心配をかけたくないタイプだし、それに……
……好きな人がいるんだもの。
そこで私はまた心が乱れるのを抑えて、あまり眠れないまま無理矢理にベッドに入った。
アキラ。本当に言ってるの?
アキラ。ねえ。アキラ。
ねえ。ねえ。ねえ。
いつしか目は閉じられていた。
「あなたが、コヨミさん?」
私は驚いた。
#闇バイト
るしゅ
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#大人ロマンス
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#心理戦
鬼霧宗作
94
臣桜
99
同時に、様々な想念が入り混じって胸が張り裂けそうになった。
決して、夢ではない。
現実に居た。
居たのだ。
アキラと一緒になって、こちらをまじまじと見つめる瞳があったのだ。
私は震える声で聞いた。
「アキラ、その人って……」
「な、何で居るんだよ。こんな時に」
「それ、どういう意味」
「別に何でもない。休むんじゃなかったのか」
「元気になったから来たの。なにか不味かった?」
「いや。何でもないよ」
アキラは狼狽していた。
そんな様子をみて、口が開かれた。
「アキラの反応を見るに、この子がやっぱりコヨミさんなのね」
「ア、アカリ……」
「初めまして。私、アキラの双子の姉のアカリって言うの。よろしくね」
私は内心の動揺を隠しきれず、やはり微かに震える声で挨拶をした。
経緯はごく簡単だった。
予定通り、講義を終えて一直線に文芸サークルへ足を向かわせたのだ。
キャンパスを悠々と歩き、目的の建物に入る。
廊下を折れて、天へと昇りゆく案内所へ乗り込む。
3Fのボタンを押し、これからアキラと会える喜びにため息が漏れた。
まるで、ノアの方舟に乗せられたような気分だ。
私の幸福なため息は、1人だけの空間にたっぷりと満ちた。
充満する幸福は、鉄扉が開くと放出されていった。
そして、また短い廊下を歩く。
そこで、教室へと入るドアが見えた。
私は、アキラへの期待を胸に扉を開いた。
「よろしく、お願いします」
こうして、ばったりと遭遇したわけだ。
遭遇するだけならまだよかった。
だが、どうしても我慢ならないことが一つ。
アキラは楽しそうに傍らの女と笑って話し合っていたのだ。
なぜ。あの女が。
私は猛烈な嫉妬に震えて、握りしめる手は爪が食い込んだ。
手はみるみるうちに鬱血し、色素は不健康な紫色を描き出す。
アキラはもう、私のものなんだ。
……私のアキラなんだ。
なのにどうして、あの女が!!
「コヨミさん、あなたとアキラってどういう関係なの」
「お、おいアカリ」
「なに?」
「もう、あの話はいいだろう」
「確認したいだけよ。それで、コヨミさんはどう考えてる?」
冷淡な声で問い詰める。
「私は文芸サークルの副部長で、アキラとは別になんともないです」
「そうなの? まあ、いいわ」
「あ、あのう、何かあったんですか」
「そのことなんだけどね」
「アカリもういいだろって」
二人の会話にアキラが割り込む。
居心地が悪そうに頭をかきむしっている。
ああ、その仕草もアキラなら美しい。
凍りついていた気持ちも、アキラがそこにいるだけで溶かされていくようだ。
しかし、気を取り直して事態に目を向ける。
「あの、良ければお話しを伺いたいんですが……」
「コヨミ。何言ってんだよ」
「き、気になるから……」
「いいわよ」
自信たっぷりに言う。
私とアキラの関係を壊すように、この女は抜け抜けと舐めた態度を取る。
人の問題に簡単に入ってきやがって。
私は必死に怒りを抑える。
「私、アキラとは確かに姉弟関係よ」
「それが‥‥何か?」
「でもね。あなたは勘違いしてるわ。
「勘違い?」
「ええ、そうね。姉弟は姉弟でも、私とアキラは特別なの」
「アカリ!!」
アキラの絶叫。
部内に居た他のメンバーの視線も、一挙に重い波に変わって打ち付けてくる。
その空気の質量の荷重に耐え切れなくなった心の帆船は、たちまち荒波に飲まれる。
このままでは、難破だ。溺れる。
溺れてしまう、狂気と殺意の深海に……。
私は立ちくらみを覚えてよろけた。
扉にもたれかかる。
アキラが非難する声。
その非難はなに? 非難に込められた感情ってなに?
明らかに、彼女に好意があることを示しているではないか。
否定が肯定を示すことの残酷さ。
言の葉の、綾。
アキラは慌てて2人を外へ押し出した。
会話を聞かれたくないのだろう。
「とにかく、2人とも落ち着け」
「おかしなことをいうわね」
「はぁ?」
「私はまったくもって冷静よ。事実を述べたまでなのに、何を言っているのかしら。落ち着くのはあなたよ。アキラ」
うんざりした声で私が言った。
「もう、いいです」
「え、なに? コヨミさん」
「アカリさんとアキラの関係は、何となくわかっていました。それは学内でも有名なことですし」
「コヨミ。そんなわけないだろ」
小声でアキラが諌める。
「でも、なんでわざわざ部室までいらっしゃったのですか」
「あら、悪いかしら」
「いえ、しかし私に対して……そのう、なんというか敵視、しているような態度ですから」
「ふふ。敵視だなんて、そんなわけないわ。まあ、それでも”報告” しておかないとかわいそうだと思ってね」
「ほ、報告って。何をですか」
「この前、アキラと喧嘩しちゃってさ。でも、私とアキラは”復縁” したの。知っていたかしら」
「な、何を」
「だから、アキラといい仲になったと勘違いしたあなたが、その隙を狙って誑かさないように言っておこうと思ってね」
「復縁って……」
「そう。あの後話し合って、正式に恋人としてお付き合いすることになったのよ」
アキラが慌てたように制止する。
「アカリ。何言ってんだ。そんなことは」
「なによ。事実じゃない」
言葉が漏れる。
「……私とアキラの関係を、邪魔しないでください」
「は?」
聞き捨てならなかった。
はっきりと言った。
確かに。
私の耳は記憶している。
なのに、怒りが収まらない。
アキラの反応が真実を語っていたからだ。
だから、私は絶望した。
「関係? それどういうこと」
「おい、コヨミ。何言ってんだ、関係なんてないだろ。場をかき回すようなことは……」
関係。
それは、アキラ自身が作ってくれたのに。
どうして。
「なんで? アキラ。なんでなの!?」
私は走りだす。
ああ、以前の私もこうして走り出していたっけ。
でも、今の方が苦しい。
それはそうだ。
私のアキラが……本当に盗られたんだから。
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